夏に花火は上がらない

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 目を開けられないほどの光を注いでくるアイツに私の首筋を伝うものは止まることを知らない。衣服をじんわりと湿らせ纏わりつかせる厄介なそれに私の眉間には常に皺が寄る。  でも、青空で存在を主張する眩しいそれよりも、もっと熱さを持った彼のごつっとした中指が私の頬を一撫でするだけで不快感は暑さの中に溶けて消える。 「愛してる」 「……はい」  優しげな微笑みから紡がれる言葉に、夢の中にいるような幸福へと沈んだ私の唇はうっとりと惚けた音を返す。  お互いの薬指に収まったプラチナは愛の証。  永遠の誓い。  おめでとう、と祝福の花火が上がった初夏のこと。  あの日以来、花火は特別で、大好きな景色の1つ。  ――けれど、時が経てばかわりゆくものがある。  嘘じゃなかった。  誓いも、あつさも、言葉も、想いも  花火が煙たいものにしか見えなくなったのはいつからだろう  指にあったものが箱の中でふたりぼっちになってしまったのはいつからだろうか  触れてくる男らしい指に、怯えるようになったのはいつの日からだろうか 「愛してる」 「……愛してないです」
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