50人が本棚に入れています
本棚に追加
一晩の過ち
「あー…終わんねぇ…」
苛立ちと、不満と、タバコの臭いを混ぜて閉じ込めたような換気の悪いオフィスに男の愚痴が響く。
気付けば外は真っ暗。
節電のため部屋の中も薄暗く、向かい合ったパソコンの画面だけが嫌に明るく光っている。
眠い目を擦りながら、男は…小谷 史は三本目になるブラックコーヒーに手を伸ばした。
パソコンの画面右下に表示されているデジタル時計が、丁度日付が変わったことを教えてくれる。
…あぁ、さようなら。俺の金曜日。
自身のスマホを手に取るとFINEを開き、今日会う予定だったバーのマスター…兼、セフレに行けなくなったことを伝える。
数分で返事が返ってきた。
『仕事大変みたいだね』
『気にしないでいいよ』
『…でも、君を抱けないのはちょっと残念』
んん"ッ…
鏡原さん…!
優しい、嬉しい…好きだ。
年上の包容力たまんない。
やっぱり身を委ねるとしたら年上だ。
落ち着くし、甘えられるし、優しいし…
スマホの画面を見つめ、ぼーっとした頭で瞬きを繰り返す。
暗い画面には窶れた顔の自分が映っている。
…甘えられるなら、セックスが下手でも多少痛くても…セフレでも別に良かった。
甘やかされたい、撫でてもらうだけでいい。優しく腰を振って名前を呼んでくれれば、それだけで最高に満たされる。
ただ…年下にそれをやられると、何故だか最悪に空しくなってしまう。
だからいつも選ぶ相手は年上だ。これだけは譲れない。
…とは言うものの。
最近残業続きで全く遊べていないせいか、疲れと性欲ばかりが蓄積されてずっとムラムラしている。
今日の夜を、どれだけ待ち望んでいたか…
もう、いろいろ限界。
気持ちよくなりたい。
…気持ちよくしてほしい。
誰でもいいや
「…あぁー、…抱かれたい」
「主任。まだ居たんですか?」
「ッあ!?」
突然、真後ろから聞こえてきた声に驚き椅子から落ちそうになる。
スマホの画面を慌てて消して振り返ると、そこには見慣れた部下の姿があった。
最初のコメントを投稿しよう!