飛んでく不良。

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飛んでく不良。

「…俺がΩなワケないだろ。馬鹿な事言ってないでさっさと出てけ。」 俺は俺の傍に立つ不知火を無視し、再び机の上の生徒会の書類にペンを走らせる すると不知火の手がペンを持つ俺の手を 上から包み込むようにしてやんわりと止め―― 「おい。」 「…こんなにハッキリとΩの甘いフェロモン漂わせている癖に  そっちこそ何言ってんだよ…  いい加減誰かに襲われる前に俺に抱かれとけって。な?優しくしてやっから…」 不知火はそう言いながら俺の首筋に鼻先を擦りつけるように這わせ始め 俺はそんな不知火に少々ゲンナリとしながら大きく溜息を吐きだすと 不知火の頭をガシッと掴み 俺の首筋をなぞっている不知火の顔をグッと俺から引き離し 呆れた視線を不知火に向けながら口を開く 「…このαだらけの学校で  俺からΩのフェロモンの匂いがするなんて言ってるのはお前くらいしかいない。  俺が襲われるとか、そんな心配いらないから  いい加減お前は耳鼻科行って診てもらうべきだ。  養護教諭に紹介状を書いてくれるよう…今度俺から頼んどこうか?」 現にコイツ以外から学校で 『Ωのフェロモンの匂いがする。』なんて言われた事も無いし… それでもコイツが余りにも匂いを理由に俺に言いよってくるもんだから 一度不安になって、俺が協力している研究所で 俺からΩのフェロモンが出てないか診てもらった事すらあるが―― 結果は俺からΩのフェロモンは検出出来いないと判明。 更に研究所で働くαの研究員達からも 俺からそんな匂いは感じないとのお墨付きをもらい 俺は安心してこのαばかりが通う学校に通えている訳で… 俺は改めて自分の手を握っている不知火の手を邪魔臭そうに振りほどき 今度こそ生徒会の仕事に集中しようと机に向かうが 不知火が小さく「…嘘だろ…?」と、呟いたかと思うと 俺の両肩を強く掴み、強引に俺の上体を自分の方へと向けさせてきて―― 「ッ、オイッ!」 「こんなに…ハッキリとお前からΩの匂いがすんのにマジで言ってんのか?  耳鼻科行くべきなのは他のヤツ等だろ…今だってこんなに――」 不知火の顔が不意に俺の眼前に迫ってきたと思ったら 何か柔らかいものが俺の唇に押し宛てられ―― 「…ッ!?!?」 それが不知火の唇だと分かった瞬間、俺は慌てて不知火の胸を押す 「ぶ…はっ、止めろ不知火っ!おまえ…っ、何してっ、」 俺の座って居る椅子がギッギッと音を立てて揺れ 不安定な状態の中、俺は必死に不知火の胸を肘で押し、顔を逸らして抵抗する それでも不知火は頬を紅潮させ、呼吸を荒げながら 嫌がる俺に顔を近づけようとしてきて―― 「こんなに俺を煽る匂いさせてやがんのに…  お前がΩじゃないとか…何かの冗談?  そういう冗談いいからさ……抱かせてくれよ一之瀬…  俺もう…我慢の限界で…、」 「ふざけんなっ!誰がお前なんかに抱かれ――」 俺はいよいよ身の危険を感じ 不知火の胸を押していないもう片方の拳をグッと握りしめ 不知火の顔をぶん殴ってやろうかと息んだ次の瞬間 「一之瀬かいちょ~!頼まれてた資料、持ってきま…し、た…よ…?」 「ッ!二ノ宮…っ!」 副会長の二ノ宮 洸(にのみや こう)が やはりノックもなく気の抜けた声と共に生徒会室に姿を現し 目の前で繰り広げられている光景に暫し唖然とした様子で固まるが―― 「ッ!また会長に手ぇ出してんのかよっ、この猿…っ!」 直ぐに正気を取り戻した様子で 二ノ宮は猫のように静かに素早く不知火の背後に回り込むと その手に持ってた分厚い資料を不知火の後頭部目がけ、思い切り振り上げ―― ―――おいまさか…流石にソレでぶん殴ったらアカンのでは… 俺は咄嗟に不知火をぶん殴ろうとしていた拳を解き 不知火の背後にいる二ノ宮に向けて手を伸ばすが 「…毎回毎回…一之瀬会長に盛ってんじゃねーよ畜生がっ!」 「ッ!?」 異変に気づいた不知火が背後を振り返った瞬間 不知火の頭部側面にバチコーンッ!…と それはもう…盛大な音と共に見事に二ノ宮が振り下ろした資料がクリーンヒットし 俺は手を伸ばした姿勢で固まったまま視線だけを動かし 不知火が俺の横を飛んで行く様を見送った…
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