定期健診。

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定期健診。

時刻は午後17時過ぎ… 高校から歩いて10分程の距離にあるミ〇ドにて―― 「それにしてもホント…何なんでしょうね?不知火のヤツ…  一か月前…獅子牙(うち)に異例の転入を果たして以降…  やたらとかいちょーに『Ωの匂いがするー』とか何とか言って  ちょっかいかけてきたりして…  かいちょーからはそんな匂いしないのに…」 下校時刻から大分経っているにも関わらず… 高校から比較的近い依距離にある為か 未だ学校帰りの学生などで賑わいをみせている店内で 俺と二ノ宮は窓際のカウンター席に座り 二ノ宮は頬杖をつき、外を行き交う人や車などを眺めながら ピ〇チュウドーナツを頬の部分からハムッと頬張ると ちょっと不貞腐れた様子で俺に話かけ 俺はラッ〇ードーナツをスマホでパシャっと撮ったあと ちょっと口元を緩めながらそれに答える。 「さぁ…?  単純にアイツのΩからのフェロモンを感じ取る部分がバカになってるだけだろ。  αとしては致命的ではあるけれども…」 俺は一通りラッ〇ーの造形をニヤけながら楽しんだ後 何食わぬ顔をしながらそのラッ〇ードーナツを 何の躊躇(ためら)いもなく頭から(かぶ)りつき、「ん~…」と唸りながら至福のひと時を過ごす… そこにフッと俺の頭上から影が射し込み―― 「あっ!佐伯さんだ。ヤッホー佐伯さん!今日もかいちょーのお迎えですか?」 「え…」 「今晩は、二ノ宮さん。(ゆずる)君、お迎えにあがりましたよ。」 俺のすぐ隣に いつの間にかネイビーのチェスターコートを着た若い男性が立っており―― 俺の隣の席に座っていた二ノ宮がいち早くそのコートの男性―― 佐伯の存在に気づくと、ニコニコと佐伯に向かって手を振りながら 頬が大きく(えぐ)れた残りのピ〇チュウを 大きく開けた口の中へと放り込む。 「アレ?佐伯さん…??何で此処に…一昨日(おととい)もうすでに――て…あっ!  も…もしかして今日って…“あの日”――  でっしたっけ…?」 「“あの日”…“でした”ねぇ…ひょっとして――忘れてましたか?」 ―――マジか…すっかり忘れてた… 三か月に一度… Ωからαになった事で俺の身体が“あの日”を迎える事によって どんな“変化”が訪れるのかを定期的に検査を受け、調べていたとはいえ―― やはりαに転化して以降は“あの日”が訪れてもなんの変化も起きない為に 俺は今日が“あの日”に関する検査の日であった事をすっかり失念していて… 妙な冷や汗が背中を伝うなか…俺は隣に立つ佐伯さんの事を見上げる… すると佐伯さんはその穏やかな顔に相変わらずニコニコとした笑顔を張りつけたまま 俺の事を覗き込んでおり―― ―――う”っ…圧が…ただ微笑んでいるだけなのに圧が凄い… 「…スミマセン…忘れてました…」 「…いけませんねぇ~…“今”の禅君には必要のない事かもしれませんが――  ちゃんと“定期レッスン”は受けていただかないと。」 「うっ…」 佐伯さんは綺麗な笑顔のまま俺に向かってそういうと 俺は何だか居た堪れなくなって俯き… 佐伯さんはそんな俺に席を立つように促すと、向かいの席の二ノ宮に声をかける。 「…という訳なので二ノ宮さん…大変申し訳ありませんが禅君の事――  お借りしてもよろしいでしょうか?」 「あ…どうぞどうぞ!…それにしてもかいちょーも大変ですねぇ~…  定期的に専属講師による特別レッスンを受けなきゃだなんて――  今でも十分優秀なのに…やっぱ上を目指す人は違いますねぇ~…」 「ハハ…」 俺の口からはもう、乾いた笑いしかでない。 「二ノ宮さん…そんなに禅君の事をイジメないであげて下さい。はい、コレ――  突然お二人の時間をお邪魔してしまった事に対する僕からのお詫びです。」 そういうと佐伯さんはスッとテーブルの上に千円を置く。 「えっ、いいんですかぁ~?やったラッキ~!  ラッキーついでにラッ〇ーのドーナツ買ってこよ~っと。」 「…俺の残りのやつやるよ。」 「…かいちょーのその手に持ってる食べかけのやつももらえます?」 「…俺の食べかけもらってどーすんだよ。あげない。  せめてこれだけは車の中で食う。」 「…ケチ。」 「…なんでやねん…」 「お二人とも、そろそろよろしいでしょうか?」 「「…はい。」」 「――では…参りましょうか?禅君。」 そう言うと佐伯さんは俺が席から立ちやすいよう身体を半歩ずらして道を譲り 俺は佐伯さんに促されるまま席を立つと 子犬のような目で名残惜しそうに俺の事を見つ続ける二ノ宮を店内に残し 佐伯さんと一緒に店を後にした…
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