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「あっ! 乗ります!」
私は恥ずかしげもなく扉が閉まろうとしているエレベーターに向かって叫んだ。
これだけ大きな声で「乗ります」なんて宣言されたら大概の人は開ボタンを押してくれるだろう──
(よかった! 開けてくれた!)
心優しい住人のお陰で助かった。もしこの人が最上階に行く人だったら虫だらけのエレベーター前で暫く待たなければならない。
「はぁ、はぁ、すみません。ありがとうございます」
「いいえ、何階ですか?」
男の人の声──
ほんの少し警戒したが階だけじゃ部屋までは特定出来ないだろうと思い素直に自分の階を伝えた。
「6階をお願いします」
「はい」
チラっと眼球だけを動かし行き先ボタンを確認する。オレンジ色に光っているのは6階と9階。この人は最上階の人らしい。走ってでも乗っておいて正解だった。シャツを静かにパタパタさせ熱くなった体に風を送る。
“ポンッ”
目的階に到着を知らせる到着音が鳴った。エレベーターのドアが重たそうにゆっくりと口を開ける。
「ありがとうございました、失礼します──」
同じマンションの住人なので一応愛想は良くしておこう。一緒に乗り合わせた男性はそれに応えるかのようにペコリと会釈をしエレベーターの扉は閉まった。
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