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翌朝──
乗場ボタンを押し電光表示盤を見ると1階から登ってくるようなので今日は誰とも相乗りしなさそうだ。
エレベーターの扉が開く音が聞こえたのでスマホをいじりながら中に入ろうとすると降りてきた誰かと肩がぶつかった。
「きゃっ!」
「……っ!」
「す、すみません! 大丈夫ですか?」
降りてきた女性は声を出さず前髪を押さえながらペコリと会釈をして6階フロアへと降り立った。私もそのままエレベーターに乗り込む。
閉ボタンを押しエレベーターのガラス窓の方に目をやると女性の後ろ姿が見えた。普通はフロアに降りたら自分の部屋へと向かう筈なのに女性はエレベーターの扉の前で背を向けたまま、ぼうっと立っている。
なんで立ち止まってるんだろう────
一度違和感を覚えると、もうその女性から目が離せなくなった。
なんだか気味が悪い。
妙に背が高いし髪の毛も綺麗過ぎて逆に人工的に見える。
エレベーターの扉が閉まりきると同時に女性は動き出した。
「え───」
無音のエレベーターの中にモーター音が響く。
部屋の扉の前に着いた女はくるりと振り返りエレベーターで降りていく私を見て口を動かした。
『こ』
『こ』
『?』
女は私の反応を見てニヤリと笑っている。
「なんで──」
動き出したエレベーターは止まらない。
まばたきをした次の瞬間にはもう女の顔は見えなくなっていた。
「そっちは、私の部屋──」
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