#1 革命(前半)

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#1 革命(前半)

「 守りたいものを守るために、      強くならなければいけない… 」 「 望めば手に入るものではない… 」 「 行動を起こさねば! 」 …はぁ、とため息が漏れた。 暑い夏も終わりに近づいた頃、 夕方の公園で1人演劇の練習をしていた… 夏休みが終わればすぐ学園祭。 実は学園祭で主役という大役が与えられ緊張している… それは夏休み前のミィーティングで決まった事だった… オーディションを行なった時に脇役で応募したのに、先生が主役をやってみないかと言ってきて、 咄嗟に「やります!」なんて返事をしていた。 性格上なんでもチャレンジしてしまう自分を今更、呪っていた。 午前午後で公演のメンバーがチェンジするので、 主役は2人いるが…3年生の先輩を差し置いて主役というのはどうなのか。 部長は優しく「輝田さんならできるよ頑張って」と言ってくれたが、副部長は怪訝な顔をしていたし… …当たり前だろう。 周りからも凄い!とか輝田さんのこの間の演技良かったよねとか…褒めてもらえていたのもあって… ちょっと調子に乗ってた… …でも、なんであの時は良い演技が出来たのかって 春輝先輩の言葉のおかげだと思うんだ。 コーヤンと春輝先輩が秘密裏に修行をするって話が出て、私は仲間に入れてもらえなかった… いや、入れてもらえるわけないって分かっていたけど… 「ごめんね、莉桜ちゃんは出来ない」 そう言われたのが悔しくて私は涙が止まらなくなって走り出してしまった… あの後、ちょっと話しかけずらくて、 2年生の教室にすら近寄り辛くなっていた… いろいろ考え過ぎていたのか、 ぼんやりしていたら5時間目の授業が始まった。 始まって10分くらいした頃に教卓側の扉が開く。 みんなの視線が集まり、私もなんだろう?と目を向けると… 春輝…先輩??! 思わず立ちあがりそうになったのを堪えた。 「あれ?莉桜ちゃんってこの教室じゃなかったっけ〜?」 あたりを見渡す中で私の名前が聞こえて、 びっくりした。 私を探してる? 「おい!今何んの時間だと…」 「あ!いたーーー」 先生の話を無視して春輝先輩が私に近づいてきて、 ジュースやお菓子を渡してきた。 「この間はごめんね、嫌いとかそういうのじゃないから、またお話ししよ〜」 それだけ言って去っていってしまった。 授業がはじまってるのにお構い無しで教室入ってきちゃう春輝先輩…凄いなぁ…先生も唖然としてるし、 やっぱり格好いい。 先生は私が知り合いなのが信じられないみたいで 「お前また変なのに絡まれてるのか?!」 なんて心配してきたけど、 みんなは知らないんだ… 春輝先輩は莉桜のヒーローなんだよ。 うじうじ悩んで泣いていたのが馬鹿みたい。 ジュースにふと英語が書いてあった。 “Believe in yourself.” ってなんだっけ… 辞書を引くと「自分を信じる」か… そうだ、莉桜は莉桜でしかないんだから、 悩んでても仕方ない。 出来る限りのことをしよう。 いつもより世界がキラキラして見えた。 ちょうど演技の練習をしていたし、 学校で1.2年生だけのちょっとした舞台が行われ、 先輩達に見てもらえる、はじめての舞台だから頑張ろうとしていた。 その前に、春輝先輩にお礼を言いにいかなきゃって、会いにいった事がある。 台本を私が持っていたのもあって練習に付き合ってくれたり… 春輝先輩の時間をもらっちゃうのは申し訳なかったけど、それも凄く嬉しかった。 だから、あの時自信満々に演技が出来たし。 それが評価されたみたいで先生からも褒めてもらえて… 学園祭では主役も、もらえて… 全部、春輝先輩のおかげだ……!! 思わず二年生の教室に向かうと、 千雪先輩と話してる春輝先輩がいた… なんだか話しかけずらい… それに…なんだろう…2人の雰囲気がまるで… いや、そうだよね…? 高校生だしカップルなんてたくさんいるし… …そうかもしれないし。 …駄目… なんで?私… 胸が苦しかった… おかしい。 ちょっと今日はわからないや、 また今度話すタイミングはあるよね? そう思ってたのに。 校内で見かけるたびに千雪先輩といるのは… どうしてなんだろう… やっぱりそういう関係なんだよね。 じゃあ莉桜が居たら邪魔だよね… いいんだ、大丈夫だから… 頑張ろう。 莉桜は莉桜だもん… そうやって自分の気持ちに蓋をした。 … 夏休みが明けて、演劇部のミィーティングと打ち合わせ…そして台詞合わせがあった。 確かこの部屋の筈… ミィーティング場所が記載された、部活のお知らせの紙を持って行くと、まだ誰も居ない。 あれ?確かにここだよね? やけに暗いから部屋の電気をつけようとした瞬間、扉がバタンと締まり、ガチャガチャと鍵がかけらる音がする。 冷や汗が出た。 この部屋古いから鍵をかけられちゃうと、 裏からは開けられない… どうしよう、待って!!! 「なんで…」 とにかく誰かに連絡をしなきゃ… 春… いや… 落ち着かなきゃ、春輝先輩に頼るのは違う。 心配かけさせちゃ駄目だ… お姉ちゃん… 不安な中、何度もお姉ちゃんにコールをした。 … 携帯が光っていたが、 ちょっと今手が離せなかった… 珍しく掃除当番を押し付けられ、 ちょっと腹が立っていた所で… クラスメイトとその事について話していた。 男子2人、女子2人とやる予定だったのだが… 男子が時間になっても来ない。 ボイコットか… だったらこっちにも手がある、 先生に話して半分だけ清掃をして、 後日男子生徒に半分やってもらうようにした。 だったら無駄な時間を過ごさなくていい。 …また光る… なんだろう、こんな何回も着信があるなんて… それは、莉桜からの連絡だったようで、 ちょっと嫌な予感がした。 掃除は残り後少しで終わる… とりあえず着信を折り返した。 「ごめんね、連絡すぐ出れなくて…何かあった?」 私がかけると、すぐ出てくれたので急ぎ気味に話すと、 「忙しいのにごめん、ちょっとお願いがあるんだけど…今何かしてる?」 なんておそるおそる聞いてきた…なんだろう… 「掃除してるよ?どうしたの?」 「終わってからで大丈夫なんだけど、三階の1番奥の古い部屋知ってる?あの部屋の鍵持ってきて欲しくて」 「…どういうこと?…何かするの?」 ちょっとだけ沈黙があったが、 莉桜が明るい声で話し出す。 「ちょっとドジ踏んじゃって…演劇の練習してたら寝ちゃったみたいで先生とかが鍵かけちゃったみたいなの」 「え?閉じ込められてんの?…すぐ行くね」 私は事情を話して、掃除も後ちょっとだし、 申し訳ないが女子1人に残りを任せて職員室に向かった。 …職員室の先生の口からは驚くべき言葉を聞いた。 演劇部で使うからとつい数時間前に部員が鍵を借りにきたらしい… 職員室に鍵はないし、 莉桜との話が合わない。 いま問いただしてもはぐらかされるだろうと、 私は演劇部の部室に向かう。 そこでは、最近莉桜が練習していた台詞を演じてる声が響いた…悪くないけど、感情がしっかり乗ってないみたい…莉桜の方が上手いなぁなんて思った。 区切りの良さそうなタイミングに、 部室の扉を開けると私に注目が集まる。 「輝田莉桜いますか?」 いないのをわかっていながら、そう聞いてみる。 「びっくりしました、確か…2年C組の最上玲さんでしたよね?」 にっこりと笑う女性は莉桜から聞いていたが副部長だっけ? …あんまり詳しく知らないけど、 嫌な目つきだってことはわかった。 話し方も煽ってきてるみたいで嫌な感じだ。 「ちょっと急ぎの用で、何処にいますか?」 「来てないですよ?今日は部活の大事な打ち合わせだというのに来てません…どうしたんでしょうね」 それを聞いて殴りかかりたい気持ちを抑えた。 「…はぁ…、全部わかってるんで鍵もらっていいですか?…というか…これって、部員全員がしくんでんの?」 周りを見渡すと、みんな目を逸らした。 先生は複数で鍵を借りに職員室に来たといっていた、この場で正してやろうと思っての言葉だ。 「最上くんだったかな…」 落ち着いた印象の男性が声をかけてきた。 「なんでしょうか?」 「持っていくといい」 鍵を渡され少し驚いた。 「部長!!!」 さっきまで、上から目線で話しかけてきていた副部長らしき女が口を挟もうとしたが、私は鍵をぶんどる。 「最低」 それだけ言って部室を後にした。 早く、莉桜のとこに行かなきゃ… あんな奴らとよく演劇なんて出来るなぁ… なんでずっと言ってくれなかったんだろう。 やっと三階のボロボロな部屋の前に来た。 どれだけ1人でここにいたんだろう。 ガチャリと扉を開けると奥で縮こまる莉桜が居た。 「お待たせ…ごめんね」 私が駆け寄ると、莉桜が「お姉ちゃん!」と驚いていた…扉を開ける音すら気づかなかったのか… 何を考えてたんだろう。 「莉桜こそ…ごめんね」 「ねぇ、もしかしてさ…部活で虐めとかされてない?」 私が聞くと首を横に振った。 「されてないよ?みんな優しいし」 キョトンとする莉桜に大きなため息が漏れた。 ちゃんと言ってあげなきゃ。 「この鍵は…」 「お姉ちゃんありがとう!部活行ってくるね!鍵戻しておくよ…あ、今度お礼にスタバ 行こう」 そう言って鍵を持って走っていってしまった。 …… なんで? 話してくれてもいいじゃない… でも、今回の役楽しみにしていたから もしかして…強がってるのかな。 どうしたらいいんだろう… 怪我をしてるわけじゃないし、 見守るしかないのかな… …… 部活の時は、なるべく頼れる人と行動をした。 私は私で仲良くしていた人がいたし、 きっと… 副部長が何かをしたんだろうけど… あんまり考えないようにと思っていた… でも日に日に、 私と部活に行くことをみんなが断る… 莉桜と居たら標的にされちゃうかもだし… まぁ…大丈夫よね。 衣装採寸やデザインの打ち合わせ、 舞台セットの形作りが進んでいた時、 先生が教室に来て 私に声をかけてくれていた。 「調子はどうかな?リハーサル前に何回か合わせようと思ってるから、明日とか部員みんなで簡単に衣装合わせしながらやらないかい?」 「やりたいです!」 周りもそれには賛同してくれていた。 演技で先輩達に認めて貰えばきっと… そう思ってのことだった。 …が…次の日、大事件が起きる。 莉桜が早めに部室に行くと、 大事な衣装がボロボロになっていた。 それも莉桜以外の役の衣装全部だ… 「なんで?」 嫌な感じがしていた。 また誰かに仕組まれたんだろうか… 「輝田さん?」 そこには先生がいた。 「先生!大変なんです!衣装が!」 と言った瞬間、先生は怪訝な顔をする。 なんでだろうか… 「最近部員から話は聞いていたんだが…輝田さんが先輩達に対する態度が悪かったり、部活にも遅刻をしてきたり…足を引っ張るって言われてね…」 「そんなこと…してません」 撤回しようとすると、先生は困った顔をする。 「輝田さんがそういう子じゃないと先生も思ってるけど…みんなとこのまま溝があったら主役は難しいかもしれないね。」 「そんな…」 落ち込むのを励まし気味に先生は暫く休みなさいと声をかけてくれたが、 そんな風に逃げるのは嫌だ… 本番まで後数週間なんだもん… 頑張りたい。 やり切りたい。 それで出来れば…春輝先輩に見に来て欲しい… そんな事を思っていた。 「なにこれ!最悪!」 その瞬間、衣装作りのメンバーが入ってきた。 「私たちの作った服…アンタがやったの?!」 「主役だからって調子乗りやがって!」 とふたりの女子が髪を掴んできた。 痛い。 「こら!やめなさい!」と先生が言うも、 怒った女子が莉桜を突き飛ばした。 ガンッと机に当たると腕にミシンが落ちて当たる。 「痛ッ!」思わず床に蹲った。 「輝田さん!!!」先生が起こそうとしてくれたが動かされるのはあまりに痛いから、 触らないで欲しかった。 「先生、大丈夫です、ちょっと保健室行ってきます」 「顔が真っ青だよ、僕も着いていくよ」なんて言われたが悔しさと悲しさと痛みで「平気です!」と言って衣装室から出て走り出した、 あまりの痛みで転びそう…保健室…いかなきゃ… その瞬間ドンッと副部長にぶつかってしまう。 最悪だ… 「痛いわね!なに走ってんのよ!」 副部長は私を突き飛ばした、もう駄目だ… これ以上動けそうにない… 「ふーん…どっか怪我でもした?具合でも悪いの?…一年生の癖に主役なんてやろうとするからよ」 ガッと莉桜を蹴り飛ばしてくる、 反撃したくても痛みで声が出ない。 「お人形さんみたいね、そうやって黙っていればいいのよ、舞台に立つ資格なんかないんだから」 何回も蹴られ、踏まれる。 自分が頑張る事で誰かを傷つけていたのかもしれないと感じた… 莉桜は莉桜でいたかった。 それだけなのに。 自分を信じる。 ただ、そうやってきただけなのに… なんで? 「はい、そこまで〜」 急に聞き覚えのある声にハッとした。 「な、なによ!」と副部長が焦りだす。 「暴力反対、やられたやつはやりかえされるんだよ〜?お前いつか痛い目にあうかもね♡」 「ッ!…!!何も知らない癖に!」 それだけ言って副部長が走り去る音がした。 そうだよね、だって見た感じ怖いもの… 話しかけられて怖かったのかな? 痛い筈なのに何故か莉桜は笑ってしまった。 変な安心感… 「痛かったね〜?なんでこんなことになってんの〜?痛そうじゃん〜…莉桜ちゃんってトラブルメイカーなの?」 「そうかもしれないですね…そんな時にいつもきてくれる春輝先輩は莉桜のヒーローですよ」 そう言って私が微笑むとサラッと髪を撫でられた。 なんだろう、身体中痛いのに触れられて痛みが和らぐ… 「ちょっと待っててね」 春輝先輩が誰かに電話をしていた。 なんか、身体中が熱いなぁ… 変な感じ… 目を瞑ると廊下の冷たさが気持ちよく感じた。 今はただ怠くて、 眠りたくて… 意識が遠くなるのをただ感じていた。 … 「何が起きてんの…」 保健室で寝ている莉桜の横に鷹左右春輝がいたので私が声をかけた。 「一応念のため救急車待ちって感じ…?汗かいちゃってるし熱もあるみたい…どっか折れてたらヤバいからね」 「誰がこんな…」 救急車が来るらしいと言う噂で、まさか莉桜じゃないかって不安が的中してしまって。 もっと自分が早く動いていたら違ったのにって 悔しくてベッドのカーテンをきゅっと握った。 「職員会議で先生いなかったけど、戻ってくるだろうし…ちょっと話さねぇ?」 珍しく真剣な表情の春輝だったので、 とりあえず頷いて保健室を後にした。 … 放課後、誰もいない教室に入り話をする。 こうやって2人っきりで話すのは始めてだった。 莉桜から話は聞いていたし、 勉強会で多少話したことあったけど… いまだによくわからないタイプの人だ。 「莉桜ちゃんって、我慢強いの?」 第一声がそれだった。 「いや…我慢…というか、1人で抱えちゃうのか…相談してくれなかったね…」 ちょっとバツが悪くて目を逸らす。 もっと踏み込んで聞いていればある程度話を聞けた筈なんだ… 「…仲良くないの?」 それは言って欲しくない言葉だった。 仲良くしている方だったのだけど… 「…なんかね、あんまりいろいろ聞いても嫌われるような気がしちゃって最近話せてなかった…本当は異変にもっと早く気が付いてたのにさ。」 「女子同士ってそういうとこあるよね〜」 急に知ったような口ぶりで言うので、 不思議な気分になる。 確かに、男の子同士の方が本音で会話してたりするのかも… 「まぁ、後悔してるならやるしかないでしょ」 突然莉桜の台本を渡される。 台本には、たくさん書き込みがしてあって… 本当に莉桜がこの役に力を入れていたのがわかる。 しっかり考察も書いてあるし、 動きとか考えてる。 見してもらったことが無かったけど 本当に演技が好きなんだ。 「やるって、何?」 私が台本を一通り見た後、声を掛けると 春輝が「演技」なんて言ってにっこり笑った。 言葉の意味が全然わからなかったが、 この後、 恐ろしい計画に私は巻き込まれることになるのだった… next…
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