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囚人の寝室の出入り口で待っていると、フラフラと彼女が出てきた。 「砂子!」 叫ぶように呼び、駆け寄る。 「昨日、大丈夫だった?」 言うと彼女は赤い目をトロンと流しながら首を傾げた。 「昨日?」 「そう。夜、凄い音がしたじゃない」 「————」 眉間にうっすら皺を寄せながら砂子が宙を見る。 「痛……」 言いながら後頭部を抑えている。 「どうしたの?」 「わかんない」 言いながら水色の髪の毛を撫でている。 「なんか、頭が痛くて…」 彩子はその小さな頭に触れた。 「————何よ、これ」 砂子の後頭部には、いくつもの熱く硬い瘤が出来ていた。 そのしこりを撫でるたびに、砂子の赤い目が痛そうに瞑る。 「誰にやられたの?」 砂子は答えようとしなかった。 それどころか心底わからないというように顔を歪めたまま俯いている。 「砂子?」 その首に何か赤い影が見えたような気がして、彩子は覗き込んだ。 「————ひっ」 思わず咽喉が引いた。 彼女の首には太く赤黒い痕が残っていた。 「砂子!誰に!?」 赤い目が彩子を見つめる。 ―――もしかして矢島……? 彩子は昨日の夜、自分に“そばにいる分には守ってやらないわけでもない”と言った男の顔を思いだした。 ―――あんなことを言いながら、砂子にこんなひどいことを? いや、もしかしたら。 どこから現れたのか、洗面所で顔を洗っている波多野を見る。 彼かもしれない。 昨夜の音は彼が、砂子に何かをしていた音で、それで矢島が助けて―――。 ーーーどっちだろう。 「ごめんね、覚えてないんだ」 砂子は興味なさそうに視線をずらすと、力なく彩子を押した。 「————いい?トイレに行きたいから」 そのまま廊下をとぼとぼと歩き出す。 「————砂子?」 道なりに曲がり、トイレの方へ消えていった小さな背中を、彩子は見つめていた。
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