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妹尾彩子は目を開けた。
ーーーここは、どこだっけ。
フレンチリボン調の真っ白い椅子に彩子は座っていた。
隣の椅子には、幼馴染の虻川玲が眠っている。
もう一度重たい瞼を持ち上げ、部屋を見回す。
ーーーどこかの、教室?
いや違う。
中世ヨーロッパのような派手な洋室の壁際に、椅子と同じくフレンチリボン調のテーブルが並べられ、その奥には厨房が見える。
レストラン、いや食堂だろうか。
中央に、部屋にそぐわないホワイトボードが置かれ、その前に数名の男女が椅子を並べて座っている。
どこかおかしい。
どこがおかしい?
彩子は息苦しさを感じ、自分を見下ろし、そしてゾッとした。
今朝、自分で選んだ、小花柄のワンピース。
『随分気合が入っているのね」』
髪をアイロンで巻いた娘を見て、母は笑った。
そのワンピースごと、彩子の身体は、パイプ椅子に細い荒縄で何重にも巻かれ、縛られていた。
戸惑い、視線を上げる。
全員で10名。
皆が皆、椅子に座り、同じく縄で縛りつけられている。
目を閉じている玲の向こう側に、漆黒の髪の毛で、他の男女と同じように頭を垂れている青年が見える。
大学生だろうか、もしかしたらもっと若いかもしれない。
声をかけてみたいが、この異常な状況の理由がわからない以上、恐ろしくて音を立てられない。
誰か目を覚ましてくれないだろうか。
何か声を発してくれないだろうか。
彩子の強い視線を感じたのか、その青年が瞼を開けた。
瞬きを繰り返しながら頭を軽く左右に振っている。
そして自分の縛られている身体を見る。
しかし、彼から発せられる感情は、驚嘆や困惑ではなかった。
落胆と絶望。
まるでこうなることを予想していたかのように、青年の反応は静かだった。
こちらの息遣いに気づいたのか、青年はその魂のこもらない視線を彩子に向けた。
無言で見つめあう二人。
やけに色素の薄い瞳。
整った顔に結ばれた唇。
その聡明そうな顔は、いつかどこかで見たことがある気がした。
―――この人、誰だっけ。
彩子はその顔を見つめた。
親戚?
同級生?
あ、芸能人かもしれない。
テレビで見たことがある気がする。
ーーーでも…。何か違う?
そのとき、洋室全体が激しく揺れた。
必死で足を踏ん張る。
10人中3名が椅子から転がり落ちた。
―――え。
無言のまま青年と視線を交わす。
――――ここって、もしかしてーーー。
「船の中……か?」
青年が低い声を発するのと同時に、クラシック調の重そうな洋風ドアが一気に開け放たれた。
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