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入ってきたのは、30歳前後の女性だった。
グレーのスーツにふくよかな体がきつそうに収まっている。
色白で濃いメイクを施したその顔は、見方によっては美人と呼べないこともない。
彩子は微かに胸を撫で下ろした。
ここでサングラスをかけた強面の男たちが入ってくるよりは、数倍マシな気がした。
「う、ううう」
まだ床に転がっているままの男の一人が唸った。
倒れた際に衝撃を受けたのだろうか。眼鏡の片方のレンズが割れている。
女性は男性を両脇から抱えると、椅子ごと抱え起こした。
「ーーーあ」
強制的に起こされた男は、瞼を開け、その女性を見ると、口をパクパクと震わせながら、精一杯背筋を伸ばした。
「す、すみません!!」
男が必死の形相で謝ると、女性は微笑みながら、傍らに落ちていた眼鏡を拾い上げて、その男に掛けた。
「大丈夫?」
男が振り切れんばかりに首を上下に振る。
―――どういうこと?なんで謝るの?
彩子はその異様なやり取りを、固唾を飲んで見守っていた。
女性は男の肩に軽く手を置くと、倒れている他の人間に寄っていった。
次に起こされたのは、髪の長い女だった。
黒髪が、洋室を照らす上品な間接照明の光をキラキラと反射させている。
彼女は椅子を起こされても、そのまま眠っていた。
隣で微動だにしない玲を見る。
ーーー玲も、そうだよね?眠っているだけだよね?
祈るような気持ちで見つめるが、彼女が起きる気配はない。その代わりに彼女の隣で、物音を立てず声も上げずにただ座っている男を見た。
彼は、今度は大柄な男性を起こしているスーツの女性を気にしながらもチラチラと後ろを振り返っている。
その視線を追うと、金髪の男性が座っていた。
こちらも深い眠りの中にいるのか、顎を上げて、口を開けて寝ている。
ーーー知り合い、なのかな。
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