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その夜。
結沙は特にリラに深い事を聞き出そうとはしなかった。
ただ、今日見た事は誤解であり、あの女の人は幼馴染で取引先の社長の娘で、ずっと告白されているが断っている。
だがあきらめきれず、時々、無理やり抱き着いて来たり迫ってくるときがあって困っている事。
あまりしつこい事が多く、そろそろ出入り禁止にしようかと結人と相談していたところである事を説明した。
リラは素直に信じてくれた。
すっと、どこか固かったリラの表情が少しだけ柔らかくなったのを結沙は感じた。
そんな結沙に、リラは鞄から手帳を取り出して中を開いて見せた。
「これが…私の本当の名前です…」
その手帳は、リラが検察官である証明手帳であり、名前は東條(とうじょう)イディスと書かれていて、リラが綺麗なブロンドの長い髪の写真も貼られていた。
その手帳を見て、ブロンドの髪のリラを見ると、結沙はあの事故の時すれ違った女性を思いだした。
帽子を深くかぶっていたが、あの女性は…リラだと、確信した。
「ごめんなさい。麻中田リラと言うのは、全くの偽名です。…営業部長の事を探る為に、派遣社員としてここの会社に来ました」
「そうだったんだ。でも、どうして偽名まで使って営業部長を探る必要があるんだ? 」
「営業部長は、横領の容疑がかかっています。そして、ひき逃げ…いいえ…引き殺した疑いもあるので、確かな証拠を手に入れるために来ました」
「引き殺したって、誰を? 」
「私の…母です」
「もしかして、今日いた交差点で亡くなった人? 」
「はい。私の母は、営業部長と深い中だったんです。ある時、営業部長の横領に気づいて自首するように勧めていたようです。他にも、営業部長は今まで手に掛けた女性を色々追い込んでいて。中には自殺した女性もいるので…」
「じゃあ、初日に部長に近づいたのは。事実を聞き出そうとしていたの? 」
「はい…。食事中にも、色々と聞き出す事はできましたが。もう少し、詰めた事が知りたくて…」
「そうだったんだね」
「すみません。母は、とても優秀な検察官でした。部長には検察官であることは、全く話していなかったようです。知り合ったのも、駅前で偶然出会ったようで。何度も、警察に自首するか、会社に真実を話して欲しいと説得していたようです。でも…結局は、殺されてしまったようで…」
グッと込みあがってくるものがあり、リラは言葉を詰まらせた。
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