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それからしばらくして庭を歩いていると、隣り合った紫蘭の葉に、ふたつのセミの抜け殻があった。
あのセミたちの抜け殻だろうか。
彼らはここで生まれたのか。
一緒に育って、一緒に大人になった『友』だったのかもしれない。
たかが虫に、人が思うような友情などないかもしれない。けれど、私には偶然に思えなかった。私の前をぐるぐる飛ぶセミがいた。それはまるで、力尽きて倒れた友を、外敵から守るようだった。
そして、そのぐるぐる回るセミもまた、同じように力尽きたのかもしれない。
アリに運ばれていたセミは、私がほうきで履いたセミがいた場所とは少し離れていた。セミには羽があるから飛んで行ったのかもしれないし、アリが離れた場所まで運んで行ったのかもしれない。
声が大きく、立派だったセミ。後で知ったのだが、カチカチはやはりセミの声だったようだ。ひっくり返ったセミがカチカチ言っている動画があった。
しかし、私が聴いたセミの声は、ミンミンもカチカチも、とにかく大きな音だった。もしかすると、違うセミだったのかもしれない。ただ、私には同じ音に聴こえた。どちらもいままで聞いたことがない程に、大きなミンミンとカチカチだった。
セミとしては、こちらのセミが強かったのかもしれない。ホントにでかい声だった。クソうるさかったし、クソうるさかった。しかし、彼が倒れた後、巨大な生物(私)から守ろうとしたセミ。
あのセミも勇敢だった。自分よりもずっと大きな生物から友を守ったヒーローのようなセミだった。彼は友を守ったところで力尽き、アリに運ばれたのかもしれない。
家に入る時に聴こえたカチカチカチカチカチカチカチカチは、瀕死のセミの『俺にかまわず行け。お前は生きろ』だったのかもしれない。
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