からたちの歌

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「なにぼんやりと歩いてんだよ。転ぶぞ」  後ろからそう声を掛けられて、僕は慌てて振り向いた。 「なんだ、コウスケか」  わざとつまらなさそうに言うと、コウスケがにやりと笑う。いつもの放課後。帰り道。夕日に照らされて、影が長く伸びる。 「コウスケも今、帰りか?」 「うん。今、帰り。前をだらだら歩いているのがいるなと思ったら、お前だった」 「悪かったな。暑いんだよ」  歩くうちにずれてゆく肩掛けカバンの位置を直し、ついでに手で仰ぐ。夏休みが終わって新学期が始まっても、残暑は続く。空の高さに秋の気配を感じるけれど、気温はまだまだ夏のようだ。 「そう言えばさ、進路表出した?」 「聞くときには、自分のを先に言うのが礼儀だろ?」  思いついた問い掛けにすかさずそう返され、ちえーっと呟く。  夏休みが終わって、いよいよ高校受験も本格的になってきた。いい加減志望校も決めていかなくてはいけない。僕の学力で行ける範囲を挙げてゆけば大して数もないくせに、いざとなると決められないでいる。 「コウスケ、僕と同じくらいの成績だよな。お互い黙っていても、一緒の高校になったりして」
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