からたちの歌

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「そんなの、分からないだろ」  思わせぶりな台詞に、慌てて斜め後ろを振り返った。 「嘘っ。もしかして、成績上がった?」  勢い込んでたずねる僕を、コウスケは笑い飛ばす。 「なにあっさり騙されて、焦っているんだよ」  その言葉にからかわれていたのだと知り、むっとした。志望校の話なんて受験生にとっては重要なことなのに、はぐらかした上に引っ掛けるなんてずるいや。それじゃあまるで、まるであいつみたいに、 「あれ?」  さっきまで出掛かっていた言葉が、溶けて消えるように抜けてしまった。戸惑いだけが残って、助けを求めるようにまた振り返る。コウスケはさっきからずっと一歩後ろを歩いていて、決して僕を追い越そうとしないでいた。 「ねえ、あいつ誰だっけ。ほら、小学校から同じクラスで、いつも一緒にいた奴。夏休みに講習会行くって言って、それから急によそよそしくなった」 「誰だよ、それ」 「だから思い出せないんだよ。えーっと、なんて名前だっけ」  思い出そうとすればするほど、イメージが曖昧になる。たった今自分が説明した人物像以外、すべてが分からなくなっていた。
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