からたちの歌

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「あのな、中学三年生で来年受験で、この夏休みに夏期講習行って、それ以来真面目に勉強に打ち込んで、付き合いが悪くなっていく奴、わりといると思うんだけど、どうよ」  心底あきれた様に言われ、言葉に詰まる。確かにこんな中途半端に田舎の場所でも、駅まで出れば塾はあって、僕ですら短期の講習会には参加した。その後付き合いが悪くなっていったかどうかは、本人の自己申告より他人がそう見るかどうかの話だ。 でもなぁ。 「誰だったかなぁ」  コウスケも知っている奴なんだ。だってとても身近にいた。っていうことは最低限、同じ地区で小学校からの付き合いで、なのに、なのに、 「男だっけ? 女だっけ……?」  それすら、忘れている?  呆然とつぶやくと、コウスケの声がした。 「疲れているんじゃねえの? 暑さにあたったんだよ」  のんびりとした言い方は変わらないのに、どこかうかがうような口調。僕は息を吐き出すと、気分を変えるように辺りを見回した。 「そうなのかな」  確かに暑いけれど夕暮れのせいか、昼のゆだるような熱気はおさまっている。
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