からたちの歌

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「疲れって、真っ最中よりも一段落付いた頃のほうが一気に出るんだぜ。お前の場合、それの気がする」  そういうものなのかなと思いながら、帰り道を歩いてゆく。両脇をからたちの生垣で囲われた、一本道。田舎らしく人気は無く、ここにいるのは当たり前のように僕とコウスケだけだ。 「あともうちょっと、涼しくなればいいのに」  見慣れた両脇の緑になにか息苦しさを感じ、意味も無く肩掛けカバンの位置を直してみた。 「まだ無理だろ」 「そうだな」  こもる暑さに押しつぶされそうになって、風が無いことにふと気が付く。からたちの棘だらけの生垣は、ただでさえちょっとやそっとの風では動きそうも無くて、葉すれの音が一切しない。  ああそれに。  確かめるように耳を澄ませ、小さくうなずいた。風だけじゃない。この季節なら当たり前のように聞こえていた、蝉の声がしないんだ。なんの物音もしない、一本道。  けれど無音であることに気づいた途端、ふわりとかすかにピアノの音が流れてきた。 「カノンだ」  ほっとして、思わずつぶやく。ピアノの音色は優しく響き、なにかが欠けているような、そんな不安を消し去ってくれた。
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