からたちの歌

6/10

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「違うだろ。これは輪唱の曲だよ」  僕の気持ちなどお構いもしない、コウスケの突っ込み。むっとしながら反論する。 「同じだよ。輪唱のことを英語だかなんだかでカノンって言うんだよ」 「違うね。輪唱は同じ旋律で次々に歌ってゆくけど、カノンは別の音程とかリズムで歌っても良いんだよ」 「……そうなの?」  悔しいけれど、コウスケの説明のほうが僕より理論的だ。 「じゃあ、カッコーが鳴いたり、蛙が歌ったりするのは?」 「輪唱だろ」  ためらいの無い返答にふうんとうなずき、また黙り込む。繰り返し繰り返し、追いかけ続いてゆく、メロディー。すんなりと僕の耳や心に入り込み、なにかの記憶をゆっくりと浮かび上がらせてゆく。  なにか。  そう、今まで忘れていた、なにか。 「この曲、……覚えている。小さい頃、歌っていた。コウスケともう一人、女の子」  そうだ、女の子だ。 「僕が最初に歌って、彼女が次。そして三番目がコウスケだった。繰り返し繰り返し、追いかけ続いていって、いつも最後は笑ってお終いになったんだ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加