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「違うだろ。これは輪唱の曲だよ」
僕の気持ちなどお構いもしない、コウスケの突っ込み。むっとしながら反論する。
「同じだよ。輪唱のことを英語だかなんだかでカノンって言うんだよ」
「違うね。輪唱は同じ旋律で次々に歌ってゆくけど、カノンは別の音程とかリズムで歌っても良いんだよ」
「……そうなの?」
悔しいけれど、コウスケの説明のほうが僕より理論的だ。
「じゃあ、カッコーが鳴いたり、蛙が歌ったりするのは?」
「輪唱だろ」
ためらいの無い返答にふうんとうなずき、また黙り込む。繰り返し繰り返し、追いかけ続いてゆく、メロディー。すんなりと僕の耳や心に入り込み、なにかの記憶をゆっくりと浮かび上がらせてゆく。
なにか。
そう、今まで忘れていた、なにか。
「この曲、……覚えている。小さい頃、歌っていた。コウスケともう一人、女の子」
そうだ、女の子だ。
「僕が最初に歌って、彼女が次。そして三番目がコウスケだった。繰り返し繰り返し、追いかけ続いていって、いつも最後は笑ってお終いになったんだ」
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