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弐
「ん……ここは?」
目を覚ました貴志は見覚えのない風景に戸惑いを感じていた。
フローリングの部屋に住んでいるはずなのにここは畳。
つまり、自分の部屋ではない。
眠い目を擦りながら周囲を見た後、彼は呆然としていた。
「何だこれ……。ボロボロじゃないか。障子は破れまくってるし、掛け軸も何が描かれていたかわからん。何よりこの布団、カビ臭くてたまったもんじゃない!」
彼は慌てて布団を出て思考を巡らせた。
ボロボロなところから考えても旅館ではないだろう。
ではどこなのか?
何故こんなところにいるのか?
そうこうしているうちに用を足したくなった彼はひとまずトイレを探すため部屋を出た。
そこで彼はまた絶句してしまう。
「ただのボロボロじゃない、床は腐ってるし天井も何ヵ所か剥がれてるじゃないか……一体どういうことなんだ」
彼の目に映ったのは朽ち果てた屋敷の廊下、自然に飲み込まれ帰ろうとする庭の姿だった。
「カンベンしてくれよ……。まぁ、仕方ない。こんな所に人もいないだろうし」
肩をすくめた彼は、この廊下を歩くことを諦め庭で用を足すことにした。
そして庭から屋敷へ戻りこれからの行動を考えようと振り返った時、廊下の先に人影が見えた。
「やべっ! 見られたかな?
いや、そんなことよりこんな所に人がいるなんて!ひとまず話を聞かせてもらわないとな」
「オーーーイ!」
彼は呼び掛けるが人影が反応した気配はない。
向かおうにも廊下は通れない上に、庭から回ろうにも植物達に行く手を阻まれてしまっている。
そのうち、人影も消えており彼は仕方なく部屋に戻ることにした。
スマホのGPSで現在地を調べれば誰かに迎えにきてもらうなり、タクシーを呼ぶなりしてなんとか帰れるだろう。
そう思っていたのだが━━
「圏……外? 嘘だろ?
ほんと、一体どこなんだよ!」
《スマホが使えない》彼はその状況に参りながらも仕方ないと無理やり切り替えひとまず外に出ようと考えた。
外にさえ出れば誰かいるかもしれない。
バス停や駅でもあれば帰ることもできる。
しかし庭から出るのは鬱蒼と覆い茂る植物が邪魔しているので、庭とは反対側の襖を開けた。
「くせぇ……。カビの匂いだけじゃないな。それに薄暗いし、床も腐ってる可能性あるから気を付けないとだな」
少し見た感じ、右側は突き当たりのようである。
そのため、左へゆっくり、ゆっくり歩み始めた。
廊下は2m先も見えない程度の明るさでただ、ゆっくり、ゆっくりとした歩調で進む。
その刹那━━
顔に何かがへばりついて貴志の足を止めた。
「うわっ! なんだこれ?!
くっついて取れやしない……くそっ、ベタベタして気持ち悪い!」
突然のことにパニックになりながらもなんとか取ろうと悪戦苦闘を繰り返す。
その時、勢いあまって壁にぶつかると同時にその壁が倒れてしまった。
「いてて……何がどうなって……お、よつやく取れたな。それにしてもここはどこだ?」
どうやら、倒したのは壁ではなく襖だったらしい。
それすら気付かないほどに前に進むことに集中していたのだろう。
「……! なんだこの臭い!」
部屋の様子を伺おうとした瞬間、強烈な悪臭が鼻をついた。
先程廊下に出た時にも少し感じた臭気がこの部屋では一段と強まっている。
「生ゴミでも溜め込んでるのかよこの匂い……。こんなところにいたらおかしくなりそうだしひとまず廊下に━━」
後ろを振り向いた彼の目の前には壁が広がっていた。
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