偽り

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偽り

偽りの恋。そんなものが何事も無かったかのようにこの現代社会に存在する。好きでもない人とあたかも恋人のようなことをして、飽きたら手放す。彼氏を物体のように扱っているかのような交際なんて、許されるものでは無い。今までの私はそう思っていた。 けれど、今となってはそんなことはただのいい子ちゃんが口にするような言葉だろうと思うように私はなってしまったんだ。だって私も、偽りの恋をしてしまったのだから………。 相手は同じクラスのイケメンくん。高身長で茅色のショートヘア、消炭色の瞳の容姿をしている素っ気ない性格な人だ。クラスメイトではあるものの実際のところ話した回数が遥かに少ない。 なのに………。 「俺と付き合って」 夕日が顔を出し始めた17時頃。2人きりの教室で、私は彼にさりげなく告白をされた。別に好きな人なんか居ないし作ろうとすら思わなかったけど、彼といれば欲が満たされるかもしれない。その時の私はそんな自己中すぎる理由だけで彼・夏霧 淳弥を選んだ。 その日の帰り道。 「ねぇ、なんで急に告白してきたの」 私は頭に浮かんでいた疑問を夏霧くんに投げかけた。 「別に。特別あんたを好きって訳ではないし」 「じゃあ、本当は誰だって良かったってこと?」 「はっきり言えば。けど、アンタも俺と同じように欲を満たしたいがために誰かを選ぼうとしてたから」 「同じ……?」 彼の口から発された言葉。私はどうもそれが引っ掛かった。同じ。もしかして、最初から偽りの恋をしようとしていたってこと……?もしそうだとして私を選んだのなら、ある意味道理は通っているかもしれない。果たして、本当にそうなのだろうか。その答えは私にも分からない。いや、わかるはずなんてない。彼が本音をうちあけてくれるまで私は彼の私情に介入しないようにすると決めた。 彼の欲望を満たすためだけに私は夏霧くんに選ばれた。その事実は何一つ変わらない。もし私のことを本気で好きだったとしても、きっとすぐに愛想をつかされてしまう………。そんな思いになるくらいなら……、 自分から愛してもらえにいけばいいんだ その日の夜、私は彼に抱かれた。ホテルで。 部屋の時計に目をやると時刻は午後7時を回っている。自分の体はベッドの上にあり、掛け布団に覆われている。 「おはよ」 少し離れたところから彼の声がした。声のする方に目をやると、夏霧くんは上半身裸に頭にタオルをかけている状態でいる。引き締まった腹筋が目立っていて、正直目のやり場に困ってしまう。けれど彼の前で恥じらいを見せたくなんかない。だからいつも通りで私は彼に対応する。 「私、寝てた……?」 「うん。そりゃあもうぐっすりと」 「起こしてくれたっていいじゃん」 「それは……ごめん。」 素っ気なく文字数の少ない会話。大した接点もないならこれくらいは異常ではない。むしろこれが普通。 「じゃあ、私帰るから」 私は制服に着替えてその場から去ろうとした。あんな雑な告白をされて嬉しいなどという感情を示せるはずがない。愛してくれるなら誰でもいいと思ったけど、それは正しいと言える判断ではなかった。きっと誰もが口を揃えて「お前は間違っている」と言うだろう。 すると、夏霧くんが私を背後から抱きしめた。 「もう行っちゃうの?」 耳元で私はそう囁かれた。背後から感じる彼の熱と甘い匂い。偽りであれど私を愛してくれた人がそこにいる。そんなことを考えた瞬間に私は、目頭が熱くなった。自分の目から流れる涙。拭っても拭っても流れてくる。 「東雲さん………?」 「……やっぱり帰らない」 「最近からそう言えばいいのに。今日は一日部屋使えるから、もう少し一緒にいてよ。そうしたら寂しさも少しは紛れるだろうからさ。お互いに」 「…ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」 「何?」 「なんで、私に告白したの?今まで好きだと思ってなかったんでしょ」 私の質問に彼はすぐには答えなかった。数秒の間ができた後に、彼は回答をした。 「俺さ、好きだった人を友達に奪われたんだよ。中学の時のクラスメイトでさ、結構仲良かったんだよ」 「ふーん……。それで?」 「それで、放課後に見たんだよ。俺の親友が俺の好きな人とキスしてるのを目にしてさ。それ見た瞬間にわかったんだ。あぁ、俺は奪われる運命なんだって……」 乾いた笑みを浮かべていた彼は抱きしめていた自分の両腕を私から離した。彼の話は理解の苦しむようなことではない。むしろ理解しかできないと言った方が早いかもしれない。ひとりが嫌で私のことを選んだのなら、それは正解。 「たとえ本当に相手のことを好きじゃなくても、誰かが自分のそばに居てくれたら俺は他に望まない」 「………あっそ。じゃあ、私帰るから」 「うん。じゃあ、俺も帰る。駅まで送ってく」 そう言って、彼は私がいるにも関わらずなんの躊躇いもなく制服に着替え始める。まぁ、別にいいんだけど……。帰る準備が整い、私達は部屋を後にした。 20時30分。私たち二人は八王子駅で解散をすることになった。まさかこんなことになってしまうなんて自分でも思ってもみなかったけど、こんな風な恋も悪くないと私は思う。 「今日はありがとう」 「こちらこそ。東雲さん、気をつけて帰って」 「うん」 「あと最後に………」 引き止められて私は彼にキスをされた。突如のことでどう反応するべきかわからず、私は焦りを隠せなかったが、私の表情を目にして夏霧くんはすぐに口を離した。 「……彩乃、好きだよ」 彼がさりげなく放った言葉に思わず私は心を引かれてしまった。 2人の姿が夜の街にそっと溶けていく。
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