6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
冬の公園
ふぅ、と息を吐くと、群青色の空に白い空気が馴染む。
この白い空気が寒さ故に出てきた吐息なのか、コンビニで買ったやっすいわかばのどっちかは分からなかったが、家に帰るまでの近道に使う公園がやけに煙臭くなったことは事実だ。
昼間は子供たちの声のする公園も、深夜に聞こえるのは俺の帰路に戻る足音くらい。
とは言っても、今日はなんとなく帰るような気分にもなれない。
恋人と喧嘩をした。怒り任せに家を出てきたところだ。
同棲を始めたばかりだというのに、今からこの調子じゃ先が思いやられる。
適当に公園のベンチに座り込むと、短くなった煙草をその辺に捨ててコンビニ袋から缶ビールを取り出す。
カシュ、というプルタブを開ける音が静かな公園に響き、その後すぐに俺の喉元を通る音まで公園に響く。
何時だっけ、と思って公園のでかい時計に目を向けると、深夜の二時。
公園近くのマンションに目を向ければちらほらカーテンの隙間から光が漏れているのが見えたりして、家に居ても夜更かししてる奴は多いんだな、なんて思う。
電気の消えてる部屋でも夜の営みをしている奴も居るかもしれないし、布団に潜って暗い中でSNSで承認欲求を垂れ流しているかもしれない。
所詮目に見えているものだけでは物事は測れないのだ。
「成功した奴の言葉なんて聞いてるだけでウンザリだ。プライド? そうだな。お前の言うちゃちなプライドさ」
ぼんやりと、つい数十分前までの喧嘩を思い出す。
恥ずかしい話だが、俺は恋人の収入で飯を食ってる。
俺の恋人は高校生の頃に就職も進学もしたくない、とかいうとんでもねぇ理由で起業をして、たまたま成功したとんでもない豪運の持ち主だった。
俺はアイツの夢見がちだが真っ直ぐなところが好きだったし、たまに誰にも予想がつかないくらいとんでもない事をするところが好きだった。
俺はと言えば、いつまでもプロの作家になることに固執していて、いつまでもその花が咲くことは無い。
執着だけで物事はうまくいかない。技術だけで評価はされない。
結局、何事にも近道するにはある程度の「なかよしこよし」っていうクソみたいな文化は必要で、俺みたいな人の輪を嫌う人間には文学界も合わないみたいだった。
んで、恋人に「そろそろ現実を見てほしい」と言われて、そこから喧嘩になったってわけ。
「んなもん……俺が一番見たいよ」
いつまでも、夢を見ることから抜け出せない。
いつまでも、現実を見るための目覚まし時計をスルーし続けている。
最初のコメントを投稿しよう!