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それから私は毎日、向日葵畑の夢を見るようになった。
祖父は常々私に向日葵畑の世話をするように言った。面倒で面倒でたまらなかった。
だから私は火をつけた。つまらないことで火をつけた。
そして、それは彼に見つかる。本当に偶然だったのだ。私は己の悪事が見つかってしまったことにショックを受け、泣いた。
大人が気付く。泣いた私に戸惑う彼。
私は自己防衛のためにはっきりと言った。
翔太くんが向日葵畑に火をつけた。
大人はそれを信じた。祖父が大切にしている向日葵畑に孫娘が火をつけるはずがないと。優等生の私がそんなことをするはずがないと。
問題児の彼の言い分など聞いてもらえるはずもなく。
だが、今の彼は違う。村で信頼を得た。地位もある。
本当に彼は約束を守るのだろうか。ある日突然、私の罪を暴き立てるのではないだろうか。
その夏から、私は向日葵に恐怖を覚えるようになった。
百貨店のディスプレイ、街を彩る広告、スマホの中の画像にさえ。意識していなかった。だが、それはあらゆるところに潜んでいた。
年を重ねるごとに、夏だけでなく、春も、秋も、冬でさえも向日葵を幻視するようになった。
いつもいつも、脳裏には向日葵。
気を病んだ私は職を失い、婚約者とも破断した。
ある日、夢を見た。
いつもの夢。私は向日葵畑に赤い火をつけた。
その瞬間、世界が反転する。
彼が私に黒い火をつけた。私は燃え上がる。泣いて暴れて悲鳴を上げて。私は燃え尽きることさえできずに、苦しみ続けた。
そう、私は彼の憎悪という炎にくべられたのだ。
梅雨が明けた。
また、夏が来る。
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