思わぬ帰郷

4/13
前へ
/54ページ
次へ
   その日のうちに荷造りを終えた。私に重い物を持たせたくない櫂が宅急便業者を呼ぶ。  当座の着替え等が入ったダンボールとキャリーケースをお願いした。  明日櫂は、朝から出なければならない大事な講義があるからと見送りに悩んでいたけど。今生の別れじゃないでしょうと私が笑う。それでも不満そうな櫂をそっと抱き締めた。  その夜、私を抱いたままの櫂はなかなか寝付けないようで。寝た振りをした私の髪に口づけて、愛しそうに何度も抱きしめてくれた。  小さな声で私の名前を、ただ繰り返し呼んでいた……  
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加