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櫂は玄関先で私を抱きしめたまま、しばらく離そうとしなかった。
「こら櫂、遅刻しちゃうでしょ」
背中をポンポンして櫂のおデコに自分のおデコをくっつける。
「私は大丈夫だからね、櫂もちゃんと身体に気をつけて元気で私を待っていてね」
「……」
櫂は無言で私に口づけた。そしてようやく手を放す。
「いってらっしゃい」
手を振って、名残り惜しそうにエレベーターからこちらを見ている櫂を扉が閉まるまで見送った。
私も用意しよう。最後にベランダの戸締りを確認して電気の切り忘れをチェックする。うん、これで大丈夫。
荷物は昨日櫂が買ってくれた新幹線のチケットが入ったショルダーバッグだけ。それを持って玄関に立った。
「行ってきます」
大好きな304号室に挨拶をして鍵を掛けた。
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