62人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
そして翌日、お母ちゃんに駅まで送って貰って電車に乗る準備だ。
改札を通るその前に、櫂がお母ちゃんに何かをそっと耳打ちした。
複雑な笑顔で櫂の胸を拳でひと叩きするお母ちゃん、それから私達を見送ってくれる。
電車に乗り込んでから、櫂にその事を聞いてみた。
「俺も洸ももう二十歳で社会的には成人だ。母さんにはまだまだ頼りなく見えるだろうけど、それでも俺たちは母さんの幸せを誰よりも願ってるからって伝えた」
願っていてもそれを言葉にするかしないかは本当に大きな違いだ。お母ちゃんにはきっと伝わってる。
「全て母さん次第なんだけどな」
それでも櫂の言葉がお母ちゃんの背中を押す言葉になると良いな。
いつだって私と櫂の幸せを最優先にしてきたお母ちゃんだ。
「アルフォートさんがどうとかって問題じゃないんだよね」
「ああ」
今回もこんな風にお母ちゃんに心配をかけてしまった。本当にもっとしっかりしなきゃと思う。
ただ、私達は二人で頑張るだけだね。
「洸、お前今回二十歳の誕生日だったのに、なんか病気でドタバタだったよな。忘れたわけじゃ無かったんだけど」
「え、私は半分忘れてた」
その辺りって退院準備をしてたんじゃない?私の誕生日は7月12日だから、11日に退院する為に本当にドタバタしていた頃だ。さすがのお母ちゃんも今回はそこまで気が回らなかったみたいだし。
「帰ったら二十歳の記念になにか買ってやるな。あんまり高いのは無理だけど」
「良いのに」
「俺がやりたいだけだ」
今回の病気で櫂には大分負担を掛けた。それでも櫂は、いつも私に出来るだけの事をしてくれようとしてる。
「うん、ありがとう」
これからも共に過ごしていく季節。互いの夢を追いかけて行く年月。
それが櫂と一緒ならきっといつも楽しい。
大阪へ向かう電車の中で櫂の手を取る。相変わらず温かい。
その温かすぎるその手を抱き締めて、幸せな気持ちで大阪への家路についた。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!