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夕方になり櫂が帰ってきた。その手には私の好きな近所のケーキ屋さんのガトーショコラがあった。
「お土産?ありがとう」
「ああ」
まだ表情が固いかな、かなりショックだったみたいだから。
「櫂」
その背中をそっと抱きしめた。今日も暑かったから大分汗ばんだね。
「ごめんな」
「もう何度も聞いたよ」
櫂が振り返って私を抱き締めた。
「本当に俺は…お前の事となると余裕も何も無くなる。求めても求めてもまだ全然足りないんだ」
「うん」
「病院、どうだった?」
「それなんだけど…」
私は自分が卵巣嚢腫の疑いがある事を櫂に教えた。卵巣嚢腫の症状のひとつに性交時の痛みがあり、私が感じたのはきっとそれだと。
「俺が洸を苦しめたのか…?」
結果としてはそうだったけど、櫂のせいではない。
「しばらくしてなかったから私も気が付かなかったもの。仕方ないよ」
卵巣は、沈黙の臓器のひとつだという。症状が出た時には結構進んでいるとの事だ。
「前は私も櫂が抱いてくれるのが日常だったから、まさかあんな状態になるとは思わなかったもの」
「ごめん…」
「だからそれはいいの」
抱き締めてくれたままの櫂に口づける。一番ショックを受けているのは櫂だ。
「明後日、一緒に病院に行く…?」
「行く」
お医者様に、とても辛い事を言われるかも知れない。
それでも行ってくれるんだね……
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