思わぬ帰郷

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『そうか、手術になっちゃったか。ガッカリするんじゃないよ』 「うん…」  お母ちゃんはそう言って慰めてくれた。 『櫂が昨日のうちに電話をくれたのよ。もし手術になったら洸をお母ちゃんに頼んで良いかって』 「櫂が…」 『とりあえず学校の方をちゃんとして、すぐに戻っておいで。後はお母ちゃんに任せなさい』 「うん、わかった。お願いします」  電話を切って櫂を見た。まだお昼を過ぎたばかりだけど、食欲は無いな。 「櫂、お昼は?学校は何時から?」 「俺のことはいい。今日は学校行かない。お前は?」 「今から行って休学の手続きをしてくる。今からだときっと夏休みに掛かっちゃうね」  受診して入院して手術して…夏休みが終わる頃にはここに戻って来れるかな。 「一緒に行く」  櫂が私の小さなショルダーバッグを持ってくれる。 「ひとりでも大丈夫だよ」 「俺が行きたいだけだ」  もう玄関に立っている、本当は心配性だもんね。 「地下鉄で行こうな、地上より少しはマシだ」 「うん」  外は暑かったけど、それでも私たちは手を繋いで歩き出した。 「昼メシ、何か食べたい物とか無いのか?」 「ううん…暑いから食欲があまりないね、櫂は?」 「俺の事は良い」  いつも私の心配ばかりだね。 「学校の手続きが終わったら、阪急のデパ地下に寄っていい?お母ちゃんの好きなお菓子を買って行く」 「ああ」 「その後に甘いものが食べたいな。櫂、付き合って?」 「わかった」  準備が出来たら、出来るだけ早く福島に帰ろう。  今日だけは櫂の優しい横顔を思い切り胸に刻んで行こう。
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