場面九 揺れる灯火の下で(二)

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場面九 揺れる灯火の下で(二)

 慎吾は少し身体を起こし、自らの襟に手をかけて荒っぽく開いた。それから、帯を解いて緩んだ恋人の胸元に手をかけて乱暴に前をはだけ、鎖骨に口付ける。  唇が肌に触れた、たったそれだけで、有朋が息を飲んだのが判った。達するのではないかと思うほど切なげに(まつげ)を震わせ、二度大きく呼吸してから、焦れたように自ら上衣と襦袢(じゅばん)を一気に脱ぎ捨てた。そして、崩れるような勢いで慎吾の肩口に顔を埋めてきた。 「慎吾」  切羽詰まった声で呼びながら、有朋は慎吾の服も乱暴に開いて肌を剥き出しにした。両腕を背に回し、裸の胸を擦りつけるように慎吾の肌に押しつけながら、肩を噛み、「慎吾」とまた呼んだ。慎吾はまとわりついていた服の袖から腕を引き抜き、手のひらを恋人の肩に置いて、首筋を強く吸う。  掠れたかすかな悲鳴が濡れた唇から洩れて、水泡のように夜の海で弾けた。その(なま)めかしさに、今度は慎吾の方がたまらなくなった。首筋から鎖骨へ、胸元へ唇を滑らせ、既に色づき、はっきりと勃ち上がっている赤い突起に吸いつく。 「んっ………!」  声を呑みこんでのけぞる身体を、腰に手をかけて引き寄せ、慎吾は敏感なその部分を舌で責めた。ピチャピチャと淫靡な音がする。倒れまいと有朋が慎吾の肩に手をかけ、爪が食い込んだ。  ほのかな灯りの下、翳をまといつかせる白い喉を無防備にさらし、恋人はかすかな喘ぎ声を上げ続ける。慎吾は片手で男にしては細くしなやかな恋人の腰を支えながら、もう一方の手をまとわりつく袴の中に侵入させ、下帯の上から昂ぶりに触れた。  湿ったその箇所を擦り上げると、ひときわ高い、ほとんど悲鳴のような嬌声が上がった。 「ああ………っ!」  手が肩を離れ、有朋は両手で顔を覆った。身体を痙攣させ、唇を噛み締めてかぶりを振るその姿に、もう限界なのだと判った。  ()ってくれてもいいのに、と思いながら、慎吾は男の身体を褥に押し倒した。袴を引き下ろし、下帯を解くと、ぬらぬらと光る欲望が慎吾の前にさらされる。  触れられる前から、相当に昂ぶっていたのだと判る。今にも弾けそうなそれを、慎吾がそっと手に包むと、なめらかな腹がビクリと腹が震えた。恋人は顔を覆ったまま、声を噛み殺し、必死に解放を抑えこんでいる。 「山縣さあ」  返事どころではないのだろう。身体をこわばらせたまま口をつぐんでいる恋人に、愛しさをこめて慎吾は言った。 「山縣さあ。おいは一度出しとっで。おはんも辛抱せんで達きやんせ」  慎吾は汗で湿った腹に口付ける。 「顔も声も隠さんでよか。おいはいつでん山縣さあが大好きじゃ」  灯りの下にさらされた無防備な身体が、乱れた呼吸に波打つ。慎吾はぬるつく先端に唇を触れた。 「おってくれて―――ほんごつ、あいがと」  この時代に。この国に。そして、慎吾の傍に。  ここにいてくれて、本当に、心からありがとう。  舌を這わせ、口に含んで、舐め上げ、吸い上げる。 「う………あ、あ、あ………っ」  噛みしめた唇が解けて、掠れた喘ぎ声が恋人の口から洩れた。  その唇が、慎吾、と呼んだ。何度も何度も、震える甘い声で呼んだ。慎吾の位置からは、あおのいた白い喉しか見えない。だが、そこにあるのは、もう声を殺すことも顔を覆うこともなく、ひたすらに快楽に溺れる一個の裸の肉だった。  顔が見えないのが少しばかり惜しい気もするが、この男には、ひょっとするとその方がいいのかもれない。  啼いているのか、泣いているのか―――  強く吸い上げると、有朋は褥を握りしめ、叫び声を上げて達した。  白濁をすっかり飲み干して、慎吾は軽く息を吐き出す。恋人は荒い息を吐きながら快感の余韻に浸っているようだったが、ハタ、と気づいた様子で、わずかに身体を起こして慎吾を見た。艶っぽい目は、潤んで赤い。
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