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場面九 揺れる灯火の下で(四)
その時の恋人の表情を見るのは初めてだ。身体を進めるたびに、半ば開いた唇から洩れる吐息が微かに揺れる。己へと侵入してくる存在を受けとめることにひたすら集中しているのか、目は固く閉じられていた。身を捧げるとも形容していいようなその姿はどこか神聖で、それでいて恐ろしく官能的だ。
どうにか最奥を征すると、慎吾は息を吐き出した。有朋も大きく吐息を洩らす。慎吾は身体を屈め、濡れた唇に口付けた。角度が変わった刺激で、ビクッと内部が反応した。
「山縣さあ」
名を呼び、ちゅ、と湿った音を立てて頬にも唇を当てる。有朋は閉じていた目を開けた。
うわっ………。
繋がったまま、至近距離で見詰める相手の濡れた眸の艶やかさに、ずきりと胸が痛んだ。危険な衝撃は胸を衝き、背を走り下半身を貫き、我慢できなくなった慎吾は、なけなしの自制心で手加減だけはしつつも、いささか性急に抽送を開始していた。
「ち………ちいと、おめえっ」
普段なら、もう少しは互いの身体を馴染ませ、呼吸を整える余裕を与えてくれるのにと、焦った声で恋人が抗議した。だが、一旦走り出した動物的な雄の本能は、とても意志の力で止められはしない。敏感で柔らかい内部を傷つけないよう、せめて緩やかに腰を使うぐらいが精一杯だ。最初は小刻みに、そして次第に大胆に抜き差しを繰り返すうちに、熱い内部も少しずつ慎吾に馴染み、貪欲なほどに絡みつき、誘い始める。
「んん、あ、あ………っ」
吐息と共に洩れる声はとてつもなく甘く、慎吾の欲望をいっそう煽る。
気持ちがよすぎて、眩暈がする。
「しん、ごっ」
呂律の回らなくなった舌足らずな口調で、恋人は慎吾の名を呼んだ。縋りつくように背に手を回され、愛しさに胸が痺れて、慎吾は真っ赤に染まった耳元で囁く。
「山縣さあ」
「………んっ」
耳に触れる息がくすぐったいのか、有朋の唇からは、返事とはいえないようなかすかな声が洩れただけだった。
「可愛か」
ぐっと深く入り込むと、背に爪が食い込んだ。
「ん、あっ………あ、阿呆っ!」
痺れるような痛みにうっとりしながら、慎吾は再び「山縣さあ」と呼んだ。その声も、欲情に掠れている。
「好き………」
囁くと、恋人は薄目を開けて慎吾を見た。潤んではいても鋭い眼差しが、怒ったように慎吾を射る。
「嘘、つけっ!」
息を震わせながらで悪態をつかれて、繋がったまま、慎吾は苦笑する。普段言われたなら「えっ」となるところだが、この状態で言われたところで、睦言にしか聞こえない。
「何いごて嘘じゃ」
ゆっくりと抽送を繰り返しながら問い返すと、言葉を紡ぐ余裕がなくなったのか、有朋は目を閉じて必死にかぶりを振る。抱かれることに慣れていないこともあるが、欲望に任せて激しく責められるよりも、ゆるやかに高められながら昇りつめるほうをこの男は好んだ。男の欲望の徴は再び蜜を滲ませ、解放を求めてそそり立っている。縋りついていた身体を再び褥に押し倒し、浅く深く、弱い部分を責めてやると、熱い内部はそれに応えて貪欲に慎吾を求め、締め付ける。
その―――眩暈がするほどの快感。
「あ―――ああ………っ!」
ひときわ強く、痛いほどに後孔が締まって、のけぞった有朋は褥を握り締めて声を上げた。達すると同時に、汗の光る腹が痙攣するように震え、短い呼吸を繰り返す唇から唾液が糸を引く。限界を感じて慎吾は自らを引き抜き、恋人の腹に放った。
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