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二 恒例開催、愚痴大会(一)
「山縣さあが判らんっ」
休日前の一昨日、相も変わらず夜中に大山の家に押しかけた幼馴染は、ぼそりと言った。不貞腐れた表情で酒盃をもてあそぶ。
今度は一体何事か。
大山は眠い目をこすりつつ、幼馴染の愚痴に付き合って茶を飲む。
二十九歳の幼馴染は、恋するお年頃なのである。それも、薩摩人とは水と油とも犬と猿とも囁かれる、あの堅物の、五歳も年長の長州人の上官に。
何とまあ物好きな。というか、元々緩み放題だった頭のネジがついにどこかへ飛んだか。
幼馴染の年齢性別不問の好色ぶりを知っている大山でも、さすがにその話を聞いたときにはしばらく開いた口が塞がらなかった。とっとと諦めろ、と再三忠告もしたぐらいなのだが、今年の春、めでたく念願成就、一応「念友」―――すなわち「恋人同士」と認められる関係になった。多大のすったもんだを巻き起こしつつも。
だが、慎吾の観客一人の愚痴大会は、相変わらず不定期開催中である。
慎吾は自然体過ぎて相手の気持ちへの配慮に欠けているし、上官の方は神経質で心配性ですぐ気を揉む上、年長ということもあるのか克己心と羞恥心が強すぎて言葉が足りない。慎吾は懲りずに恋人を怒らせては引っぱたかれるのだが、何故怒られたかが全く理解できない。困惑するとここへ駆け込んでくる。
いい加減にしろ、と思う。
たまには弁当と手土産ぐらい持参しろ。大山自身は酒をほとんど呑まないのに、何故この酒豪の幼馴染のために、わざわざ酒とツマミを邸に常備しなければならないのだ。
頭の中で幼馴染の首を絞めつつ、大山は今夜も憮然として茶をすする。
それでも、泣きつかれるとすげなく追い返すことは出来ないところが、結局大山も、この「慎吾どん」に甘い薩摩人の一人だと思う。
酒を呑みつつ語るのを聞くと、しばらく会わないと言われた、という。
ふうん。それはそれは。
今回はやや真面目な悩みを持ってきたらしい。大山は煎餅をかじりつつ思う。もっとも、うんざりするほどの長い付き合いの歴史で、この幼馴染の愚痴を真剣に聞くと大抵馬鹿を見ると知っている。とりあえず話半分に耳を傾ける大山である。
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