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二 恒例開催、愚痴大会(三)
というわけで、今夜になる。
慎吾の訥々とした愚痴を、茶をすすりつつ聞いていた大山は、話を聞き終えると「ふわあ」と大あくびをし、バリバリと煎餅をかじる。
「弥助どん、聞きよっが」
いかにも面倒臭そうな態度に多少ムッとして言うと、大山は口に煎餅を入れたまま、もぐもぐと「聞いとる」と言った。
「まあ、山縣さあも忙しかじゃろ」
大山は茶を飲む。
「忙しいんは判っとる。おいだって、忙しいち言われれば無理じいばすっつもりはなか。じゃっど、しばらく会わんち言われっが納得いかんがじゃ」
「わいんごつ鈍か男に説明ばするんは面倒なんじゃろ」
………ひどい。
恨みを込めて睨むと、大山は眠たげに目をこする。んー、と軽く伸びをしてから気だるげに口を開いた。
「鹿児島兵の束ねばしよるわいが、長州人の山縣さあの念友ち確かにまずかろう。薩摩兵児どまからみりゃ、慎吾どんば山縣さあん色香に迷うたち言われてん仕方なか。そや、山縣さあん判断ば間違うとらん。わいが兵児どまにに嫌われたら、そん束ねば難しうなっで」
『兵式の転換のことやら、鹿児島藩兵も何かと騒々しいけ、今はあまり刺激するような事はせんほうがええ』
大山にすらすらと解説されて、そういう事かと、慎吾はようやく納得する。
そういえばこの従兄は昔、「相手の言いたいことは大体判るので、つい先回りしてしまうのが自分の悪いクセだ」と話していた。寡黙を美徳とする薩摩人だけに、長州人たちのような「打てば響く」という雰囲気ではない。だが、実は聡いし弁も立つ大山は、慎吾には頼りになる兄貴分である。
しかし、部外者に解説されないと判らないというのが、我ながらつくづく情けない。これでは、恋人が怒るのも当然かもしれない。
気まずい思いで酒盃を口に運んでいると、大山は冷淡に言った。
「いっそ別れたがすっきりする話じゃがのう」
「………弥助どん」
この一歳年長の従兄は、時々意地が悪い。低く名を呼ぶと、大山はため息をつく。
「とにかく、山縣さあん言うこつには一理も二理もあっで。時期が時期じゃっで、ここは冷静になってぐっと辛抱すうが、薩摩兵児ちうもんやないがかの」
「………」
「納得ばしたなら、おいはもう寝っで」
「弥助どん」
「何じゃ」
「鹿児島兵の束ねなんぞ、わいがやったってよか話やないが」
立ち上がって茶と煎餅を片付けようとしていた大山は、唖然とした様子で慎吾を見た。
「はあ!?」
「そいで避けられっち、おいは納得いかん」
大山はしばらく目を見開いて慎吾を見詰めていたが、一言、「わいはアホか」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。
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