新しい事始めました

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新しい事始めました

俺の家の近くには町の人が訪れるラーメン屋と蕎麦屋があった。 昔からラーメン屋と蕎麦屋は隣接していて客の取り合いになっていた。 しかし都会ならまだしもこんな田舎ではそんなに元々激しく取り合いをするものでもないためライバル視くらいの間柄だった。 元々は冷やし中華屋という限定されたよくわからない店もあったが俺と同じく都会へ旅立っていった。 ラーメン屋はラーメン・チャーハン・うどんといったメニューで蕎麦屋は蕎麦・冷やしうどん・海鮮丼といったメニューでお客は気温や気分によって二手にわかれた。 そして現在昔の同級生に元々冷やし中華屋だった所で起業しないかと誘われていた。 「お前なら皆顔知ってるし都会みたいな事にはならないぜ」 「まぁ、、、だが何しろっていうんだよ」 「それはな」 フッフッフ聞いて驚けと言いながら 「流しそう麺屋だ!」 そうすっとぼけたことを言い出した。 「は?」 「金ならある程度出すぞ」 「いやいやそうじゃなくて、ばかか?」 「おいおいひでぇな」 「客なんか来ないだろ」 「まぁ最初は来ないだろうな」 「だろ、、、ならやめ」 「が!お前が一生懸命やればこの町も活気づく!」 「何バカなこと言ってんだ」 「取り敢えず半年でいい、準備は俺がするからお前は一から全て手作りで作って経営しろ」 「いやだからやらね」 「頼む!」 「いや、、、」 「それで成功しなかったらもう何も言わないから!頼む」 結局元々就職も決まってない上必死に頼まれたのでしぶしぶ 「分かったよ」 そう了承したのだった。 「今日からお前の職場だ!」 しばらく後に二人で店の前に立っていた。看板はなく本当にタダの建物だった。 「ボロいな」 「文句言うなよ!!」 「何すればいい」 「取り敢えず看板は作れ、器具と木材は置いといた」 「どういうデザインに、、、」 「後は全て任せた!俺は資材等の必要なものを用意する係だからなにか必要になったら連絡くれ」 そう言って去っていってしまった。 「はぁ?どうしろっつーんだよ」 取り敢えず客がいる蕎麦屋の邪魔にならないように建物の中で木材に鉛筆で線を入れていく。 特に何のひねりもなく流しそうめん屋とだけ書いて様々な器具を使いどうにか彫っていく。使い方も分からなかったがどうにかこうにか工夫して削り血を出しながらも数時間かけてやっと完成することが出来た。辺りは既に真っ暗になっていた。 「集中すれば一気に作り上げられるんだな」 そうつぶやきながら重い角材を隅に置く。そして外へ出ようとすると扉の前でいかつい男の人が立ってこちらを見ていた。蕎麦屋の店主だ。 「何か用ですか?」 「お前がいつ帰ってきたんか知らねぇがこんなこと止めろ」 「どうしてですか」 「見りゃ分かるだろ誰も客なんてここに来やしねぇよ」 まぁそうだろうと思いつつ自分でもやる気は少ししか無いため反論に困ったが取り敢えず 「後半年は少なくともやるつもりです」 そう言って店主の横を通り抜けて家に帰った。 次の日も朝早くから店に行った。 「今日は看板に色を塗るか」 そう言いつつ再び角材を床に置いて頼んでおいた絵の具を手に看板に色を塗っていく。蕎麦屋やラーメン屋に行くお客さんがこちらを向いてなにか話をしている。経験則から恐らく嘲笑っているのだろうと思う。 暇つぶし程度にやっているがなんとなく見返してやろうかという気持ちが芽生えてくる。 そしてお昼になり母が作ってくれたお弁当を食べて再び作業にとりかかる。元々絵のセンスがないためラーメン屋の様な華やかな看板に出来上がらなかった。茶色の上に白い字で書き、装飾で他の色を少し書いたくらいだ。 当然あっという間に時間は過ぎて気づけば日は沈みかけていた。 そして昨日に漏れず今日も店主が見ていた。 「不法侵入では」 「ちっせーこと気にすんな」 「えぇ、、、」 「んなことよりお前のためでもあるんだ、やめとけ」 「暇人が暇つぶしをしてる程度に考えてください」 そう言って矢張り昨日のように店主を置いて帰った。 そしてそれからも毎日店に行って看板に漆を塗ったりポスターを作成したり建物の中を掃除したり周囲の草を抜いたりなど毎日違う仕事を黙々と続けた。 最初は本当に暇つぶしだったのだがやればやるほど流すその時が楽しみになりかなりやる気が出てきた。 もちろんお客さんはこちらの方を訝しげに見ているが熱心にやっていることが伝わったのか向こう側から挨拶をしてくれたり時には話しかけてくれる時もあった。 昨日流すための土地を買い、今日は竹を加工して流す台を作る、そんなことを考えて店につくと何故か机の上に一つの封筒があった。 そして中には現金で20万円が入っていた。 送り主の名も何も書いてはなかったがこんな不法侵入を平然としてやるのは蕎麦屋の店主位だろうとおもい苦笑いしながらも大切に使うことにした。
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