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流しそう麺屋始めました
今日の仕事内容の竹の台の作成に取り掛かる。
持ってきた竹になたで半分に割り、金槌で節を落としていく。
炎天下の中での作業のために汗が滝のように流れ、少しふらふらしてくる。
それでも迷わずにとにかくひたすら節を飛ばす。
「あ、あの!」
「ん?」
急に背後から男の子に呼ばれた。
「こ、これ、、、うぞ、、、」
緊張してるのか俺が怖いからなのか男の子が小さめの声でお茶のペットボトルを差し出していた。後ろには母親が少し遠くから見つめている。親に渡せと言われたのか自分から頼んだのか。
どちらにせよ自分にとっては久しぶりに何かに〈嬉しい〉と感じた瞬間だった。
「ありがとな」
そう言って軽く抱いて頭をなでて開放すると男の子はすごく嬉しそうな顔をして母親のもとへ駆けて行った。
その後もとにかくひたすら割って飛ばしてを繰り返した。
次の日も同じ作業をして更に次の日は台を支える支柱を作った。
その頃にはお客さんも多く作業をしている自分へ視線(前よりも明るい視線)を向けていた。
そしてとうとう始めてから2ヶ月後その日を迎えた。
「流しそう麺屋かいてーーーーん!!」
そう同級生がほぼ携わってないのだが声たかだかに宣言しこの日正式に流しそう麺屋が開店した。
が、当然うまく行くはずもなく全くお客さんが入らない。見てはいるが皆が見ているだけであるため誰も後一歩を踏み出せない、そんな感じ。
自分は何をするわけでもなく店先でぼーっとする。
なんてことはなくとにかく自分にできることはないかと時間があれば探し時には蕎麦屋の領域の草までむしった。
そのまま日は過ぎていく。
流石にそろそろお客さんが欲しいなと思いながら出勤したその日とうとうお客さんが入った。
「すみませーん」
そういいながら入ってきたのはいつしかの男の子だった。(とうぜん母親も)
「いらっしゃいませ」
「流しそうめんやりたいですっ!」
「はい、そこの椅子へかけて茹で上がるまでお待ちください」
早速そうめんを茹でる。お客さんが来ないせいで緊張する。茹でている間に冷蔵庫か冷えたお茶をグラスに注ぎ冷たいおしぼりと一緒に提供する。
「すみません、おいくらですか?」
「いえ、初めてのお客さんですので代金はいりませんよ」
「いいんですか?」
「はい」
そうして少し話をしている内にアラームがなったのでお箸やお椀等を出してからそうめんを冷水で冷やす。
「では外に行きましょうか」
「やったー!」
とうとうこの時が来たのだなと感慨にふけりながらもそうめんを流す。
そうめんは竹の上を水と共に晴れた空の下青い空を映し輝きながら落ちていく。
その瞬間が少し長く感じられ、そのそうめんには希望が詰まっているような、そんな気がした。
「あっ」
そう言って男の子がそうめんを取りそびれる。母親がそれをキャッチする。
「ずるいー!ボクのー!」
「大丈夫ですよ、たくさんありますからね」
そう言って次々と流していった。
もう自分にはこの瞬間店を辞めてもいいのではないかと思うほどに幸せだった。
そして20分位して男の子がギブアップしたところで辞めにすることにした。
「本当に今日は有難う御座いました」
「お兄さん有難う!」
「いえいえ、ぜひ今度は友達も連れて来てください、今日はこちらこそご来店有難う御座いました」
「はい!ではまた」
そういい母親が出て行くのに連れて男の子も手を振りながら店を出て行く。
そしてこの後掃除をし終わるとお客さんがさっきの親子を見ていたのか3組ほどが入店してくれた。
おじいさんとおばあさんの夫婦が2組、珍しいカップルらしい若者が1組。流しそうめんに少し狭そうにしつつも楽しんでくれた。
「お客さん来てくれたそうじゃん」
そう言って帰りに偶然一緒になった同級生が言った。
「明日も頑張れよっ!」
一緒になりそれだけ言い残して去っていった。(偶然か?)
次の日は朝早くから店に行った。
やることは掃除と台の拡張。
暇で沢山作ったため竹の準備はできているので後は角度等を気にしつつつなげるだけだ。そして拡張が終わり本来より1時間ほど遅くに開店すると丁度おじさんくらいの人が入店した。
「いらっしゃいませ」
「おうにいちゃん、流しそうめん頼めるかい」
「はい、ただいま」
普段と変わらず用意してそうめんを流す。
しばらくして終わりにしてくれというので終わりにした。
そして帰る際おじさんがこんなことを言った。
「にいちゃん、俺も町の奴らも皆よーお前のことを見とる。客が居ない時にも頑張ってるお前を皆見とるからな、頑張れよ」
そうめんを余り食べなかったこのおじさんはこれを言うだけに来たのかもしれないと思いつつ姿が見えなくなるまで何分も外に出て頭を下げ続けた。
そして次の日から驚くほどお客さんが増えた。
多くて5.6組だったお客さんは多くて15組ほどにもなり何度も通ってくださる方も増えた。
本当に毎日が幸せだった。
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