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彼の小説は
「次は一風変わったものにするんだと、短編小説を書き溜めていて……ぐすん」
女は泣きながら囲まれた記者へと、その思いをぶつけた。
「寝ずに書いていたこともありました。私が妻としてもっと体調に気遣えていたら、こんなことには……うぅ」
どの記者も神妙な面持ちで、その女の話に耳をやった。そして、ある記者が投げ掛けた。
「では、今回刊行されたこの短編集(日常の中で)はまさに、心血を注いだ彼の渾身の一冊となったわけですね」
ハンカチで目頭を押さえながら、女はこくりこくりと 何度も頷いた。
(日常の中で)は、飛ぶように売れた。
男の思いとは裏腹に、またもや様々な賞を総ナメにし、彼の遺作として語り継がれることとなった。
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