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駄作かどうかは……
女は遊び狂った。
夫を失った悲しさから、自暴自棄な生活になった……訳ではなかった。
女は元々ショッピングも酒も好きで、バーに通い、時にはホストクラブにも顔を出していた。
だが、編集の仕事では到底遊べなかった。
片田舎から出てきた彼女は都会に憧れ、華やかな生活を望んでいた。
だが、都会に住むには生活費がかかる。稼いだ金がそれに消えていくことに納得できなかった。
そんな折りに、四畳半に住まうあの男と出会った。
売れずに30を越えても、"小説家"にしがみつく男を心底 馬鹿だと思った。
こんなトキメキのない部屋で、夢を追いかけるなんて私には出来ない。
だから、この男を利用しようと思った。
まず、コンテストに合わせて小説を書かせた。そして、いくつも応募させ、箸か棒かに引っ掛かった作品をゴリ押しした。
編集長と寝るのも、コンテスト審査員にちょっとした"包み"を渡すのも、お手のものだった。
そして男は、計画通りの売れっ子へと成長した。
恩を感じ、私を幸運の女神と称したその男は、易々と私と結婚した。
日々、良い妻を演じながら、欲しいものは何でも買った。
新作の鞄も、流行りの服も、高級な食事も……まさに、女が夢見た生活だった。
だが、男がスランプに陥った。
金の卵を産まなくなった、唸る鶏を 女は処分しようと思った。
女はそうして今の暮らしを手に入れたように、再び 綿密な計画のもと、男へコーヒーを運び続けた。
少量ずつ盛られた毒にも気がつかず、女の目論み通り、男はあの世へと旅立ったのだ。
最近は悩んでいたようで、寝ずに小説を書いていましたし、無理が祟ったのだと思います……という、現編集者の若い男の証言もあり、特に解剖されることもなく過労死として処理された。
男の遺作は、「文字通り、命をかけて書いた本」として、さらにヒットしたようだ。
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