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主演女優が切ない表情を浮かべる映画のポスターがかかっているのを確認して、マキはシアターに入った。中はすでに暗くなっており、予告映像が流れている。
「席空いてるかなあ」
「レイ、こっちだ」
少女、レイがきょろきょろと周囲を見渡していると、マキが席を見つけた。席はほとんど埋まっていたが、ちょうどよく二つ続きで空いている席が一か所だけある。ラッキーだ。
「失礼しますよー」
既に座っている人たちの前を通って、二人は席につく。その瞬間に本編が始まった。
『それは、地元の夏祭りに行った日のことでした』
そんな台詞からはじまり、賑やかな夏祭りのシーン。人込みにもまれてヒロインが落としてしまった巾着を拾う男。一緒に出店を回ることになった二人は徐々に距離を縮めていく。
――つまらない。
マキは序盤も序盤の内にうとうととし始めた。あいにく恋愛ものの映画には興味がない。それに、主演の新人女優の声は低めで落ち着いていて、耳に心地よいのだ。それがまた眠気を誘った。
女優の声を子守唄に、マキは自然と意識を手放した。
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