第1話 幽霊の映画鑑賞

2/3
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
 主演女優が切ない表情を浮かべる映画のポスターがかかっているのを確認して、マキはシアターに入った。中はすでに暗くなっており、予告映像が流れている。 「席空いてるかなあ」 「レイ、こっちだ」  少女、レイがきょろきょろと周囲を見渡していると、マキが席を見つけた。席はほとんど埋まっていたが、ちょうどよく二つ続きで空いている席が一か所だけある。ラッキーだ。 「失礼しますよー」  既に座っている人たちの前を通って、二人は席につく。その瞬間に本編が始まった。 『それは、地元の夏祭りに行った日のことでした』  そんな台詞からはじまり、賑やかな夏祭りのシーン。人込みにもまれてヒロインが落としてしまった巾着を拾う男。一緒に出店を回ることになった二人は徐々に距離を縮めていく。  ――つまらない。  マキは序盤も序盤の内にうとうととし始めた。あいにく恋愛ものの映画には興味がない。それに、主演の新人女優の声は低めで落ち着いていて、耳に心地よいのだ。それがまた眠気を誘った。  女優の声を子守唄に、マキは自然と意識を手放した。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!