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第十三話 うしろだよ
これもネットで知り合った人から聞いた話
今から十年以上前、携帯のゲーム機が流行っていて子供だけでなく大人も一人一台持っているのが当り前の頃の話だ。
当時、小学校四年生だった尾上さんも携帯ゲームに夢中になっていて何処に行くにも持って行っていた。
ゲームはもちろん楽しかったが無線を使ってチャットするのが大好きだったという、流行っていたゲーム機にはピクトチャットという近くにいる人と無線を使って文字の遣り取りで会話できる機能が付いていた。友達はもちろん見ず知らずな人ともチャットで会話が出来たのだ。
その日、学校が終った後、友人たち四人と公園に集まって対戦ゲームをして遊んでいた。
先に負けた尾上はゲームを一旦止めてチャット画面に切り替えた。
〝チャラ~~ン♪〟
直ぐに誰かがチャットルームに入ってきた。
友人の誰かかと見回すが三人はゲームに夢中だ。尾上たちの近くには他には誰も居ない。
(誰だろう?)
少し困惑しているとメッセージが書込まれた。
『こんちには』
挨拶してきたので尾上も返す。
『こんにちは』
何処から通信しているのかと辺りを見回すがやはり誰も居ない。
小さな公園だから端のほうからでも通信は繋がるのは以前友人たちと試したことがある。だが今は公園内には尾上たち四人だけしかいなかった。
『あそぼうよ』
誰かが誘ってきた。
『いいけど、どこにいるの?』
尾上が訊くと直ぐに返事があった。
『うしろだよ』
尾上が振り返る。誰も居ない、公園の柵があるだけだ。柵の向こうは墓地になっている。
『あそぼうよ、こっちへおいでよ』
じっと墓地を見つめる尾上に友人の一人が気付いた。
「おのっち、何してるんだよ」
「うん、ピクトチャット」
尾上が自分のゲーム機を友人に見せた。
「誰と会話してんだ?」
残りの二人の友人も尾上の持つゲーム機を覗き込んだ。
「誰だ此奴?」
「わからない」
「面白そう、俺もやる」
首を振る尾上を見て友人たちもチャットに入って来た。
『みんなであそぼう』
友人の一人が書込むと直ぐに返事があった。
『うんいいよ』
『どこにいるの?』
調子に乗った友人が訊いた。
『うしろだよ』
尾上を入れて四人全員で柵の向こうの墓地を見つめる。
『うしろっておはかのこと?』
別の友人が訊くと直ぐに返事がある。
『そうだよ、こっちにおいでよ』
ゲーム機を手に尾上は友人たちと顔を見合わせた。
「行こうぜ」
「誰かの悪戯だよ」
「中川とか来てないからあいつらじゃないの?」
いつも公園に来ている他の友人たちの悪戯だと思って四人で墓地へと入っていった。
四人一緒で昼間の墓地だ。少しも怖くなかった。
「何処に隠れてるんだ?」
尾上たちが墓の後ろなどを探して歩く、
『こっちだよ』
またチャットに誰かが書込んだ。
『どこにいるんだよ』
尾上が返すと直ぐに返事が来る。
『みぎだよ』
『そこをひだり』
書込まれる通りに墓地を進んでいくとまだ新しいお墓があった。
『ここだよ』
そこで書き込みが止まった。
誰が隠れてるんだと四人で探していると音が聞こえた。
〝チャラ~~ン♪〟
まだ新しい墓地の下から聞こえたような気がして尾上が足を止めた。
四人揃って見ている前で音が鳴った。
〝チャラ~~ン♪〟
まだ新しい墓の下、土の中から音が聞こえてきた。
『あそぼうよ、みんなこっちにおいでよ』
尾上たち四人は悲鳴を上げて逃げ出した。
その後は別に何も起らなかった。尾上たちは公園で遊ぶのを止めたのは言うまでもない。
高校生になった尾上は昼休みに仲の好かったグループで怪談話になった時にこの話をした。
話を終えてトイレに行こうと尾上が廊下に出ると霊感があると女子の間で噂になっていた野口さんが話し掛けてきた。
「尾上くん、さっきの話聞いたんだけど……」
グループの傍で話しを聞いていたらしい。
「なに? お墓の話?」
「うん……」
言い辛そうな野口に尾上は戯けて続ける。
「あれ本当の話なんだよ、お化けかどうかは知らないけど」
「うん、それはわかってる。そうじゃなくて」
野口の真剣な表情に尾上が戯けたまま聞き返す。
「えっ、何かあるの?」
大きく頷いてから野口が口を開いた。
「お墓に居たんじゃないの、尾上くんの直ぐ後ろに居たんだよ」
「俺の後ろ……」
戯けを消した尾上が自身を指差す。
「うん、でも気付かなかったから良かったよ、もし後ろに居るのを気付いてたら憑かれてたよ」
「取り憑かれたらどうなってた?」
険しい顔になって訊く尾上の向かいで野口も強張った顔でこたえる。
「殺されてたかも」
チャイムが鳴って野口が教室へ戻っていく、尾上はトイレに行くのも忘れて先生が来るまで廊下に立ち尽くしていた。
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