ハル・シオンと炎の街。

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          * わたしは赤ん坊のころ、攫われたことがある。毒を飲まされて、殺されるところだった。 わたしが見つかった時、わたしを攫った犯人も同じ毒を飲んで、死んでいた。わたしは、穏やかに眠っていて、みんなで顔を見合わせるしかなかったという。 「ハール」 「はい! ごめん、なんか言ってた?」 「ううん。ぼーっとしてたから」 髪と口元をきっちり覆ったチオラが目元だけで笑う。 「大丈夫かい。疲れているだろう」 「そうかな。でも、みんなと同じだけ働いて、同じだけ休んでるよ。平気」 「僕はハルの話をしてるんだよ。休憩しよう」 わたしは黙って肩をすくめた。いくつもの鑷子(せっし)鉗子(かんし)が大鍋の中でぐらぐら揺れて、熱による滅菌が行われている。先に済ませたさらしとメスは、綺麗に並べてきちんと専用の箱にしまいこんだ。 「平気よ。いくらでもやりようはあるでしょ?」 「……まあ、とにかく、ちょっと休憩にしよう」 チオラの後について歩きながら顔の覆いをとって、深呼吸をする。ぐらぐら茹だる鍋のそばにずっといたせいで、少しのぼせている。 馬のそばの木陰に座らされて、あれよあれよという間に飲み物もお菓子も用意される。レモンのにおいがする冷たい水を飲んだ。 「チオラは、過保護すぎるのよ。リーダイもだけど」 「そうかな」 「だって、わたし、チオラたちがこんな風に世話されてるの、見たことないわ」 チオラの目がきょとんと丸くなる。牛乳と小麦粉と砂糖を混ぜただけの焼き菓子を口に放り込む。 「そんなこと、ないけど。ぼくもリーダイも散々っぱら世話かけてもらってたよ。特にハルには、情けないところばかり見られてたのになぁ」 「うそ。いつ? わたし、覚えてない」
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