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次の日の朝早く、開店準備をしていたところに、約束通り藤田が現れた。
「おはようございます。すみません、昨日は何も注文せずに帰ってしまって」
「藤田くんおはよう! いいよいいよ、気にしないで。尋ね人はずっとウチにいたのに歩き回らせちゃったんだから。友達ともろくに遊べなかったでしょ。いつまでいられるの」
「はい、今日の夕方の電車で帰ります。その前にもう一度、こちらに依頼したくて」
「え? また?」
「はい、あの、これを奈緒のお墓に供えてもらえませんか」
藤田は水色の封筒を差し出した。
「奈緒に手紙を書いたんです。二通入ってます。一通は昨日の夜書いたもので、もう一通は……ラブレターの返事です。実は小学生の時に書いてたんです。でもどうしても渡せなくて。奈緒が死んじゃったって聞いてからも捨てられなくて。昨日の夜電車で実家に戻って取ってきました」
「なんと」
店長は驚いた顔で受け取った。
「わかりました。必ずお届けします。真衣ちゃん、これは真衣ちゃんの仕事だな」
「そうですね。藤田くん、奈緒のためにありがとう。ちゃんと届けるからね」
「ラブデリ、出張版だな。そうだ! この際普段の依頼も真衣ちゃんに行ってもらって……」
「ぜっっっっったいに嫌です」
店長は大声で笑った。太一も藤田も、真衣もつられて笑う。
(こんな日があるなら……)
太一は例の悪趣味なポスターに目をやった。
(もうしばらく続けてみてもいいかな、ラブデリ)
久々に晴れやかな気持ちで、太一は空を見上げた。
Fin
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