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悩める若人達の力になれと言われたものの、やってくるのは相変わらず遊び相手を探している若者達ばかりである。ほとんどが男性だったが、女性がやってくることもあった。控えめに言っても彼らは海水浴を満喫している様子で、とても悩んでいるようには見えない。ビーチで一目惚れしたから声をかけてきてほしい、そんな依頼ばかりである。しかし依頼は依頼だ。太一は彼らに代わって相手を探し、一日に一時間ほど、ビーチを歩き回るようになった。暑さとの戦いである。周りの人間が水着姿で海に入っているのを横目に、依頼人から口頭で聞いた特徴だけを頼りに目的の人物を探す。暑さと、ビーチにあふれる色とりどりの水着で目がチカチカしてくる。海で水着も着ずに周りをじろじろ見回しながら砂浜をうろつく男性——南波屋Tシャツを着ていなければ通報されていてもおかしくない。探している相手が見つかることもあるし、見つからないこともある。運良く見つかったとしてもけんもほろろ、相手にしてもらえないことが多かった。だが、それでも最後まで話を聞き、南波屋まで一緒に来てくれる人もゼロではなかった。世の中にはなんと親切な人がいるものか。依頼人の前でお互いを紹介するときには、太一は謎の達成感で満たされた。
その日の昼過ぎ、太一は朝から三度の依頼が全て空振りに終わり、どうすれば店長にラブデリをやめさせてもらえるか真剣に考えていた。
「おお太一、戻ったか。そろそろ帰ってくるだろうと思ってお客さんに待ってもらってたんだ。ちょっと奥に来てくれ」
「え? おれ今戻ったばかりなんですけど」
「すまんな。でもすごく悩んでるようなんだ。とりあえず話だけでも聞いてみようじゃないか」
なるほど、ついに店長が待ち望んでいた依頼人が現れたわけだ。これは逆らっても無駄だな。太一は心の中でため息をついた。
「わかりました。行きます」
足早に店の奥に戻る店長に続き、太一も依頼人の元へ向かった。
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