『ナンパ屋』 南波屋

5/9
前へ
/9ページ
次へ
「藤田くん、待たせてすまない。太一、こちら藤田くん。高校2年生だそうだ。藤田くん、こっちはうちでアルバイトをしている北谷太一だ」 「こんにちは、北谷です」 「どうも、藤田です」 「それじゃあ藤田くん、話を聞かせてくれるかい」 「はい、ええと、何から話せばいいかな……。今日は学校の友達と遊びに来たんです。今朝9時頃にホテルに着いて荷物を置いて、すぐに泳ぎに来たんですが、そこで見たんです……」 「何をだい?」 「亡くなった同級生を」  予想していなかった展開に、さすがの店長も言葉が出ないらしい。 「名前は、奈緒と言います。小学校六年生の終わり頃、彼女からラブレターをもらったんです。元々仲はよかったんですが、妙に意識してそっけない態度をとるようになってしまって。返事もできずにいたんです。結局卒業するまでろくに話もしませんでした。向こうは毎日声をかけてくれていたのに……でもずっと気になっていて、中学に入学すればまたすぐ会える、そこで思い切って話しかけようと思っていたんですが……」 「会えなかったの?」 「はい。中学校の入学式の1週間前、奈緒が亡くなったって噂が流れ始めました。お母さんと二人で住んでた家は空き家になってて、だれに聞いても確かな話はわからなくて」 「その子が今日の朝ピンピンしてビーチを歩いていたと」 「はい。すごくびっくりしました」 「間違いなくその子だったの?」 「もう何年も経っているので、絶対かと言われると自信がないですが……」 「でも、こうしてここに依頼に来るくらいには確信があるんだね」 「はい」 「よし、わかった! おい、太一!」  ぎくっ。 「話は聞いただろ。依頼だ。とりあえずその奈緒ちゃんを探してこい」 「とりあえずって……いや、だって亡くなったんでしょ。おれ幽霊は専門外で」 「おれだって専門外だよ。それにまだ幽霊と決まったわけじゃないだろ。藤田くん、奈緒ちゃんの特徴は?」 「そうですね、身長は160㎝くらいかな。やせていて、水色のワンンピースタイプの水着に、麦わら帽子をかぶっていました。髪型は帽子に隠れてよくわかりませんでしたが」 「太一、わかったな」 「いやいやいや、そんな女の子数え切れないほどいますよ。どうやって探せっていうんですか」 「何言ってんだ。そんなのいつものことだろ。ダメでもともと。まだ昼過ぎだし、ビーチにいる可能性は十分ある。今日はおれも一緒に探してやるから」 「店長も抜けたら店はどうするんですか!」 「大丈夫だ、どうせランチタイム以外は暇なんだ。もうすぐ買い出しに行ってる真衣ちゃんも帰ってくる。藤田くんは奈緒ちゃんのことをずっと後悔してきたんだ。力になってやりたいじゃないか」 「もちろんぼくも探します。幽霊でもなんでもいいんです。会って、昔のことを謝りたいんです。お願いします」 「はあ……わかりましたよ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加