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それから二時間、ビーチを四往復した太一は、何も手がかりをつかめないまま南波屋に戻った。五分後には、南波店長と藤田も浮かない顔で戻ってきた。
「どうだ太一、見つかったか」
「いえ、もう水色の水着といわず女の子にはかたっぱしから声をかけたんですけど全く」
「そうか。こっちはシャワー室、更衣室の近くも見張ってたんだが、さっぱりだ」
通報されなくてよかった。
「藤田くんも?」
「はい、友達にも手伝ってもらって聞き込みしたんですけど、だれもナオって子は知らないって」
「ここはさほど広いわけじゃないし。近くのホテルや旅館にも電話して聞いてみたんだが、それらしい子は泊まってないってよ。もう帰っちまったかな」
「それかほんとに幽霊なんですかね」
「藤田くん、他に手がかりはないかい?」
「そうですね……そういえば、小学生の頃、いつも同じ腕時計をつけてました。ダイバーズウォッチっていうんですかね。ごつくて、小学生の女の子がつけてるのは珍しかったんでよく覚えてます。なんでも離れて暮らしているお父さんからのプレゼントだとかで。丈夫そうだし、すごく大事にしてたんで今でも使ってるんじゃないかな」
「なるほど。でもそれだけじゃな。ビーチも旅館もホテルも、探せるところは全部探してみたしなあ」
「そうですよね……すみません。こんな無理なお願いを聞いてくださってありがとうございます。きっと他人の空似です。お忙しいところ失礼しました。あとはぼく一人で探してみます」
「藤田くん、ちょっと待って」
藤田は太一の顔を不思議そうな目で見返した。
「太一、どうした」
「店長、まだ探してないところがありましたよ」
「なんだって? いったいどこだ」
太一は答えた。
「南波屋の中です」
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