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「私が小学校に上がった年に両親が離婚しました。私は父に、奈緒は母に引き取られて、別々に暮らすことになりました。姉妹仲はよかったんですよ。離れてからもずっと手紙でやりとりしていて、お互いの学校のこととか、友達のこととか、一緒に住んでる姉妹よりも詳しいくらいだったと思います。藤田くんのことも奈緒からの手紙で知ったの。六年生の時にラブレターを書いて送ったことも」
「そうなんです! でもおれ、ちゃんと返事もしなくて……」
「うん、奈緒はとっても寂しがってた。小学校の卒業式があった日に少し電話で話したんだけど、返事をもらえないまま小学校を卒業しちゃったって、ずっともやもやしてたみたい。でも、中学校に入ればまた会えるから大丈夫だって。笑いながら言ってたからあんまり心配してなかったんだけど……」
「どうしたんだい?」
「はい。中学の入学式を迎える前に亡くなりました。見通しの悪い交差点でトラックにはねられて」
藤田は今にも泣き出しそうな顔になった。
「藤田くんや学校の友達には悪いことしちゃったね。ちゃんと知らせられなくてごめんね。あの時はわたし達も奈緒をなくしたショックでいっぱいいっぱいでね。特にお母さんはふさぎこんで仕事にも行けなくなっちゃって。見かねたお父さんがまた一緒に暮らさないかって声をかけたの。再婚したわけじゃないんだけどね。わたしと一緒に暮らせばお母さんも少しは気が紛れるんじゃないかと思ったみたい」
「それで奈緒ちゃんが住んでた家は空き家になってたってわけかい」
「ええ」
「そんな事情があったのか」
店長はしんみりとうなずいた。
藤田は涙を流しながらぽつりぽつりと話し始めた。
「おれずっと謝りたくて。ろくに話もしなくなって。あいつが寂しがってるの分かってたのに。すみません。本当にごめんなさい」
「ううん、もういいよ。何年も経ってるのに、そんな風に言ってくれてありがとう。中学生になる前に亡くなっちゃったけど、君みたいな優しい子に恋できたんだから、よかったよ。あの子、男見る目あったんだね」
真衣も目に涙を浮かべながら笑った。
「でも太一くん、どうして藤田くんが探しているのがわたしだって思ったの?」
「時計だよ」
「時計?」
「海にたまにしか遊びにこない女子には似合わない、ごつい時計してるでしょ」
太一は真衣の左手を指差しながら言った。
「ああ、これ?お父さんの趣味がダイビングでさ、小さい頃はよく海に連れて行ってもらってたの。この時計はお父さんからのプレゼント。奈緒とおそろいだよ」
「そういうことか」
店長は納得したようにうなずいた。
「藤田くん、大丈夫かい」
「はい。本当にありがとうございました」
藤田は手の甲でゴシゴシと涙をぬぐった。
「あの、明日もう一度お店に来てもいいですか」
「ん? もちろんかまわないけど、どうしたんだい」
「ええ、ちょっと……店長さん、太一さん、真衣さん、今日は本当にありがとうございました。失礼します」
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