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海の家の女子大生
太陽が容赦なく地球を焦がす8月の昼下がり。
実家の海の家で番をする私はレジ前の椅子に座って、スマホを片手に、暑さにうだり、喉をガラ付かせて叫ぶ。
「ああぁぁぁ、彼氏をくれぇぇぇぇぇぇ!」
私がスマホで見ているのは「彼氏を作る方法」だったり、占いの恋愛運だったり。良い加減飽きているけど、
「今日の恋愛運は人生で最高潮です!」
と評されていると、出会いなんて無いのに期待する。
「何処かに良い男が落ちてないかなぁ……」
女子大生の私は、日本の女の子はもっと楽しい人生を歩めると思っていた。例えば、高校だと部活の先輩から告白されたり、大学に入った後もサークルの飲み会、女友達とカフェに出掛けてスイーツを堪能しながら楽しくお話して過ごすような「輝いている女の子」になれると信じて疑わなかった。
波が砂浜を擦るザラついた音、カモメの丸い鳴き声が聴こえる。空も海も爽快に青く、これほど海水浴にうってつけの日も無いが、客足は疎ら。
(私の人生は一体何なんだろう)
高校は共学で、結構男子と仲良く会話したのに、私に告白する男子は居なかった。
大学に入った後も、私はそこそこ可愛いのに(この点は譲らない)男子から声を掛けられた経験は無い。女友達は出来たけど、周りの皆は彼氏を作って旅行に出掛けたり、海外の大学に留学したり、在学中にもう結婚したり、中には起業してビジネスを始めたりする子まで居る。
私は実家の海の家で店番をしている。
「神様お願いです! イケメンの彼氏を私に下さい!」
私は決して高望みなどしていない。
先週出掛けた駅前の美容室にイケメンの美容師が居た。長身で、細くて、名前は天明さん。
(女の子が美容室に出掛けるのは、カッコいい男性とお喋り出来るからかな?)
そう勘ぐってしまうくらい、会話が凄く合って楽しかった。
(神様! 金持ちで高学歴でイケメンなんて高望みはしません! 天明さんぐらいの人で良いんです! ちょっと優しくて、ちょっと面白くて、ちょっとカッコいいくらいの男性で充分なんです!)
「お願いです! 私に彼氏を下さい!」
こんな独り言で呟くのは、言葉を口に出せば、言霊が自分の願いを叶えてくれると占いに書かれていたからだ。
私はスマホの星座占いを再び確認する。
【乙女座の恋愛運】
今日の恋愛運は人生で最高潮です!
相手に期待するばかりじゃなく、
こちらから“恋の魔法”をかけてあげよう!
この占い師、バカじゃねぇの?
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