556人が本棚に入れています
本棚に追加
そして翌朝、瀧本の大きな声で直樹は目が覚めた。
「おまえら起きろ!」
「ひえ!」
パッと目を開けると、なぜか直樹の腕の中に奏真がしっかり収まっていた。慌てて奏真から手を離す直樹へ、瀧本は怒るでもなく千円札を二枚渡した。
「お前らこれで、朝マックでもしてこい。俺は寝るからあんまり早く帰ってくんなよ」
「あ、はぁ。ありがとうございます」
まだ奏真は眠っている。瀧本はかがみ込むと、奏真の体をゆさゆさと揺り起こした。
「おい、奏真。起きて朝飯食ってこい」
のそのそと身体を持ち上げ、奏真が女の子座りになった。まだ寝ぼけているのか、うつむいたまま手の甲で瞼をぐしぐし擦る。
久しぶりに見た寝起き姿に、やっぱり可愛いと直樹は思った。
「ぉあえりなさい……」
「うん。ただいま」
瀧本は爆発した頭を愛おしそうに撫で、さらにグシャグシャ掻き回す。されるがまま頭を揺らしていた奏真は、瀧本の手が離れると大あくびをして、トロンとした顔で直樹を見た。
「直樹もおはよー」
「おはよ。あ、あの、俺、もう帰ります。奏ちゃんまだ眠そうだし……」
「いいんだよ。朝マック行ってこいよ」
「は、はい……」
瀧本も夜勤明けで眠そうだった。直樹がオロオロしていると奏真がやっとフラリと立ち上がる。
「んー、行こう。お腹すいた」
「う、うん」
直樹達はTシャツに短パン姿のまま、夏の朝の爽やかな空気の中を二人乗りしてマックへ向かった。朝の七時。さすがに店内は空いていて、がら空きのレジでオーダーする。
「やっぱベーコンエッグマフィンセットだよねぇ~。と、コーラください」
「俺もそれー」
「奏ちゃんもコーラ?」
「うんうん」
朝日の差し込む窓辺の席。四方八方に爆発した髪の毛を気にすることもなく、「はむっ」とマフィンにかぶりつく奏真を見て、直樹は幸せな気持ちになった。
「おいしいね」
「やっぱ、マフィンとソーセージだね!」
二人でまた心から笑い合いたい。だから……。
直樹はこの日、奏真への気持ちを決して表に出さないと心に決めた。
最初のコメントを投稿しよう!