9人が本棚に入れています
本棚に追加
ワタシは宇宙人 「誘拐事件」 #03
わたしは小さい頃からずっと変わっていると言われてきた。
これは、そんなわたしの奇想天外な出来事をノンフィクションで書いている話だ。
嘘のようで本当の話なのだ。
"わたしが2歳のときの話だ"
10月に入り、周りの山々は紅葉に色づき始めた頃だった。その日はすっぽりと日が沈み、辺りは真っ暗になっていた。
わが家は夕飯時だった。そこに誰かが慌てて家に訪ねてきた。それは尋常じゃない様子だった。子供ながらにとても嫌な予感がした。
"J君とMちゃんがいないんだとよ!"
それを聞いた父は『えー!!』と驚き、様子が一変した。
しばらくすると、山の麓からサイレンの音が反響して響き渡った。すると、父はわたしを抱いたまま外に飛び出した。
外には消防団のハッピを着た村の人が何人もいた。向かいの山に赤い光がクルクルと反射して見え隠れしていた。
徐々に音が騒がしくなり、パトカーと消防車が家の前に停まった。わたしは怖くなり父にしがみついた。
しかし、父は私の手を振り解き、祖母へとわたしを預けた。
わたしは一体何が起きたのか分からず、暗い山々を照らす赤い光と、ただ事ではない雰囲気に怯えていた。
何となくだが、誰かがいなくなったという事は理解した。
"この事件の衝撃的な内容が明かされる"
この日の事件の詳細を知ったのはわたしが小学校に入ってからだ。
わたしの家は国道から数キロ山を入ったところにある。学校帰りのずっと続く坂道には毎日ウンザリしていた。
学校から帰る時、山道に入る前に必ずやる事がある。それは指で3回、眉毛にツバを付ける事だ。祖母にいつも言い聞かされていた。
"狐や狸に化かされないようにするためだ"
古くから、この辺りでは狐や狸が人を化かすという話があった。もちろん、実際に化かされた人も沢山いた。
山を降りて魚など買い物をして帰っていると、向かいから知らない男が近づいてくる。
男は、
"『ワラジの紐がほ解けているよ』"
と言って、荷物を持っててやるから結び直せと親切にしてくるそうだ。
知らない男の親切を受けて、早速紐を結び直して顔をあげると、どうしたものか。
荷物も男もすっかり消えているという事がよくあったそうだ。
村人は決まって
"狐にやられた"
と言った。
狸も人を化かすが、少しタチが違う。
狸は同じ道をグルグル何度も巡らすイタズラをする。道を歩いていると来た道の振り出しにまた戻るというわけだ。
クタクタになりながら、やっと家に着くという話は良く聞いた。それは、わたしが生まれた時代にもまれに起きた。
そんなわけで、祖母は狐に化かされてまた連れて行かれたら困るから!といつも言っていたのだ。
なぜかって、それはわたしが
"2歳の時に起きたあの事件がそうだからだ"
あの日、まだ5歳だったJ君とMちゃんの2人が行方不明になったのだ。
2人の両親は暗くなっても子供たちが帰って来ないため、警察に連絡を入れたのだ。
その夜、警察や消防団の人たちで、家の周りや通りそうな山道をしばらく探したが見つからなかった。ひとまず打ち切りとして、翌日の早朝からまた捜索が始まった。
当時は10月の初めで、昼間は暖かいが朝晩は霜が降りるなど、厳しく冷え込む。朝までいれば凍死することさえ考えられる。
そんな中、山を1つ越えた山道の脇で2人が発見されたのだ。
2人とも無事だったのだ。2人は揃ってスヤスヤと寝ていたのだと言う。しかし、そこには
"大きな古狐が、大きな尻尾でグルッと2人を囲って温めていたのだ"
人の気配に気づいた古狐はサッと起き上がり山へ逃げて行ったというのだ。
後で話を聞くと、2人はチョコレートをもって歩いていたら、J君のお母さんが前から歩いて来て
『今夜は家に泊まりなさい』
と言って連れて行ったそうだ。狐はJ君のお母さんに化けて出たのだ。
何せ、当時は5歳だった子供の話とは言えども、実際に大きな古狐と一緒に寝ていたところを大人に見られている。
疑い深い話であるが事実である。
眉毛に3回ツバをつける本当の理由はよく分からないが、眉ツバな話とはまさにこの事だろう。
しかし、私の人生は眉ツバな話は沢山あるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!