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ワタシは宇宙人 「迫る天井」 #04
幼い頃から5歳までのわたしは、祖父母に連れられて毎日田畑へ出かけた。
長靴を履いて畑に行けば芋掘りや石拾い、ビニール掛けなどを手伝っていた。
自分の家だけでなく、近所の家の畑の手伝いもした。
近所の家ではタバコの葉を作っていた。タバコの葉を一枚ずつ破かないように丁寧に手渡した。それを一枚ずつ縄の間に挟んで干し、更に乾燥させるのだ。
気がつくと手にはヤニがついて真っ黒になる。そのヤニは簡単に落ちないのだ。
タバコの葉とは何かなんて全く分からずに必死で手伝った。ただ喜んで貰いたかったからだ。その後に貰えるジュースもまた格別だった。
それに飽きると蝶々を追いかけ、野山を走り回っていた。草むらにゴロンと寝転がると空にはトンビがヒュルルーと鳴いて大きな円を描いていた。
トンビの鳴き声はのどかで、静かに眠りを誘う。
その頃のわたしは、生まれてくる事を拒んだことなどすっかり忘れていた。
ただひたすら毎日畑へ出かけ、真っ黒になっていた。それがとても楽しかった。
小学生に上がると間もなく、わたしはある現象に苦しむようになったのだ。
それはうつらうつらと眠くなり横になると時より
"天井が近づいてくるのだ。"
ゆっくりと天井は迫って来て私を潰そうとする。
その度にわたしは大きな声で叫んだ。
そんな時は母が駆けつけ、時には祖父母が駆けつけた。決まってわたしはこう訴えるのだ。
"天井が落ちてくる!"
しかし、毎回大人たちの答えは同じだった。
『何かの夢でも見たのだろう』と言ってわたしをなだめた。ひとりで寝るのが怖くてたまらなかった。何度も恐怖に耐えながらやっと眠りについていた。
ある日の出来事だった。
いつものように眠くなって横になった。天井には黄色く豆電球が光っていた。
すると耳元でジリジリと音がしたかと思うと、身体が宙に浮いたのだ。
その瞬間周りの景色は白黒に変わった。
これはまずいと思い、身体を床に戻そうと意識を沈めた。すると今度はゆっくりと下がりまた黄色い景色に戻ったのだ。
ふぅーと気を抜いた隙にまた身体が浮き白黒の世界になった。この繰り返しで気づいた事がある。それは身体は置き去りに魂だけ浮いている事だった。
そう、これまで悩まされていた
天井が落ちて来るのは間違いで、
"私自身が天井に向かって行ってたのだ。"
その日を境に、いつの間にか天井が落ちてくるという出来事は無くなっていった。
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