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だが。愉快だと思うことができたのは、転生を果たしてからそう長い時間のことではなかったのである。
誰も彼も、私の思う通りになる。段々とそれが退屈だと思うようになってきてしまったのだ。彼らはあくまで、私のチート能力に従っているだけ。心の底から私を愛しているわけではないのではないか、という疑問が浮かびあがるようになってきてしまったのである。
――何で、こんな疑問を持つの?私は私、でしょ。少女漫画のヒロインは、大して可愛くなくてもイケメン達にちやほやされて愛されまくるじゃない。私だって同じよ。この能力も私の一部、私の魅力。みんなちゃんと、私自身のことを好きなんだから……他のどんな男よりも。そのはずなんだから……!
加えて。戦いに関してなんの知識もない私の采配が通用するほど、この戦争は甘いものではなかったのだ。
イケメン達を使い潰すのが嫌で、命の危険を伴う任務は容姿が醜い兵士を優先して突撃させていった。能力よりも、容姿を優先で兵士達の配備を決定。さらに、兵士達の数が減ってくれば、王族特権で赤の国の徴兵制度を使い、好きなだけ庶民から新しい兵士を調達していく。当然そんなことを繰り返せば、まともな戦いがいつまでも続けられることはなく――やがて、国そのものが男手を急激に失い、疲弊していく結果となったのである。
やむなく、自分の“手持ち”の中から一番飽きてきた“イケメン”の優秀な兵士を戦場に投入するも、時既に遅し。
彼はひとりで百人の敵兵を倒す活躍をしたものの、そのまま戦場で倒れて帰らぬ人となってしまったのである。いくら私がやれと命じても、本人の能力を超える行為はさせることができないのだ。
「あんた達なんなのよ!どいつもこいつも役立たずばっかり!この私に愛されたくはないの!?私のたったひとりの恋人になりたくて頑張るって言っていたのはどこの誰!?私に愛されたいなら、もっと頑張りなさいよ。さっさと青の国や黄の国の王族の首を取って、赤の国の領地を広げる努力をしなさいよ!!」
毎日そうやって、玉座で兵士達に罵声を浴びせる日々。
私は少々後悔し始めていた。女神にチート能力を貰う時、“どんな男も言うことをきく”能力だけではなく、“どんな敵も一撃で殺せる、誰も勝てない最強の魔法の力”も一緒に貰っておけば良かった。与えられるチートは一種類だけだと女神は言っていたが、そもそも彼女は間違って転生させてしまった私に大きな負い目があったのである。泣き落としでもなんでもすれば、もう一つくらい最高のチート能力を貰うこともできたかもしれないというのに。
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