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どんな男も魅了することができる能力をもらったとはいえ、私自身の戦闘能力そのものは元の世界の私とさほど変わらないのである。お姫様として皆に支持を出し、何から何もまで召使にさせる贅沢三昧をしていたため、自分自身を鍛えるような面倒なことも一切してこなかった。私は、魔法が存在する世界であるにもかかわらず、一切魔法を使う方法さえも知らない状態のままである。せっかくチートを貰って最高の世界に転生したのに、現代日本のようにお勉強だの努力だのするなんてこりごりだ、と思ったのがアダとなった形だった。
――こいつらみんな無能、無能、無能だわ!こうなるのがわかってたら、私自身がチート無双できる能力を貰った方が良かった。これだけ美しい私だもの、魅了する能力なんかなくたって、どんな男も簡単に虜にできたはずなんだから……!
私に愛されたいと主張するのに、他の国に勝利する方法が見つからない。
疲弊し、困惑した表情で跪くまま動かないイケメン兵士達に苛立つ私。一発殴ってやろうか、と鞭を取り出して構えた。男が女を殴るのは倫理的にアウトでも、女が男を殴るのは全然問題ないはずである。だって、女の私の方がか弱くて可愛らしく、正義であるのだから当然だ。
鞭を振りかぶろうとした、その時である。
「もう、およしなさい、姫!」
私の手を掴み、止める者がひとり。
私の母親役の女――この赤の国の后である。
「貴女は、確かに誰よりも美しいのでしょう。でもね、だからといって何をやっても、何を言っても許されるなんてことはないのですよ、何より、見た目の美しさは生まれついて持ち得ても……心が醜い者に、人はけしてついてこない。犯した罪は、人に与えた痛みは、必ずその者に返ってくるのです」
「はあ!?何言ってんのよババア!私の心のどこが醜いっていうの!?痛めつけられてる被害者は私の方でしょ、可哀想なのはあくまで私の方!私に迷惑かけて、私を困らせてるあんた達が加害者じゃないの!!」
「……姫」
意味がわからない。確かに、女である彼女に自分のチート能力はきかないと知っているけれど、何故このように非難されなければならないのだろう。
暴れる私を、心の底から憐れむように見つめて――母親であるはずの女は、告げた。
「それがわからないなら。……やはりもう、こうするしかないのですね」
何故。彼女は私に無礼を働いているのに、イケメン兵士達も王様も一向に私を助けようとしないのだろう。
何故。この神聖な玉座に、汚らしい格好をした庶民の女達が手に手に武器を持ってなだれ込んでくるのだろう。
何故。その無礼な女達に今、自分は縛り上げられ、槍を突きつけられているのか。
ああ何故、何故、何故――誰もこの可哀想な私を救おうと動かないのか!
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