episode 06 ライブ・ダイブ・ライフ【医療事務編】

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「私の順番、まだかしら?」  門倉総合病院の待合室にて。  一人の老婦人が待ち時間の長さに痺れを切らし、受付窓口へとクレームをつけてきた。ショッキングピンクの帽子にベビーピンクの上着、さらにはサーモンピンクのパンツをコーディネイトしたピンクづくしな装いは、今にも甲高い笑い声を上げながらカメラのシャッターを切り出しそうな雰囲気だ。 「ご予約は何科ですか?」  製菓工場から転職して二年。ようやく医療事務員としての職務に慣れ始めた藤木(ふじき)輝実(てるみ)は、マニュアル通りにピンク婦人へ聞き取りを試みた。 「ナニカ? 私は眠れなくて来たの」 「心療内科ですかね。整理番号は何番ですか?」 「セーリ? 生理は、とうの昔に上がったわ」  トンチンカンな老婦人の返答に輝実は一瞬怯むが、めげずに丁重な説明を返す。 「そうじゃなくて。外来受付機に診察券を通された時に、用紙が出ましたよね? そこに記された番号を教えてください」 「用紙? 用紙なんてもらってないわよ」 「では、診察券をお見せください」 「診察券なんて、持ってないわよ」 「えー……」  ついに絶句してしまった輝実の背後で、静かだけれど力強い声の主が助け船を出してきた。 「どうされました?」 「あ、あの、このお婆ちゃん、らちが明かなくて……」  疲労困憊といった表情の輝実に変わり、レセプトを作成していた別の医療事務員が、老婦人の対応に姿を現す。 「当院での診察は初めてですか?」 「そうよ」 「どんなことが、ご心配ですか?」 「眠れないのよ。昨日も一昨日も、眠ってないの。もう三日間、一睡もしてないわ」 「保険証をご提示願えますか。では、内科をご案内いたします。長椅子へお掛けになって、こちらの問診票に気になることを全てお書きください。その間に診察券をお作りしますね」 「おやまぁ。親切にありがとう。あなた、お名前は?」  輝実に助け船を出した医療事務員は、胸元のネームプレートを分かりやすく老婦人へ提示しながら名乗りを上げた。 「天崎(あまさき)倫音(りんね)と申します」 「甘酒(アマサケ)さん。美味しそうなお名前ね、覚えたわ」  名前は聞き間違えたものの。バインダーに挟んだ問診票を受け取るや、老婦人は倫音の示した長椅子を目指して、しっかりとした足取りでスタスタと歩き出した。
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