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一月 「遊んでなんぼのこの世界」
―――私立泉南高校
ごくごく一般的な生徒と学舎を持つこの学校において、唯一他にはないある部活動が存在する。
【娯楽部】
当然、NEACが教育体制を指導するこの日本社会にとって、娯楽などという存在は言語道断である。しかし、未だNEACに摘発されることなく、今日までこの部が存続しているのは、ある一人の女性教師とそれを支える他の教師人たちの軒並みならぬ努力の賜物といわざるを得ないだろう。
―――そして
ガラガラガラ―――
「おっす~授業始めるぞ~~」
その一人の教師こそが―――
ドサ―――
「じゃ、今日もいっちょ始めますか! 数字との格闘!」
私立泉南高校 数学教師 【娯楽部】顧問
賽目 一六芭 (さいのめ いろは)
学内人気教師ランキングを着任から4年連続No.1獲得。
生徒からの人気もさることながら、教師陣からの人気も絶大である。
決して美人とは言い難い顔立ちだが、齢三十近くにして現代では幼稚園児でもしないような奇抜なツインテールと田舎娘を彷彿とさせるそばかす。
またいついかなる時でも紺のジャージという特徴的でコミカルな外見は―――彼女自身が本来持つ雰囲気のためであろうか、俗に言う痛々しさというよりも、見るものに全く威圧感を与えない人間としての親しみやすさを覚える。
明るく、誰とでも分け隔てなく話せるおおらかなで鷹揚とした態度、楽観的ながらも的を射た言動は、彼女が受験シーズンに学生生活でのストレス絶頂期を迎える3年生の「進路相談」という名のカウンセリングに引っ張りだこになる要因の一つでもある。
また、先輩教師陣に対するきめ細やかな礼節の数々、後輩教師を引っ張っていく指導力は、彼女が男性教師陣からひそかな憧れの対象になっている所以であるといえよう。
これらの彼女が持つアイデンティティの数々は、娯楽を禁止され、教育制度がもはや社会人になるための準備「機関」並びに準備「期間」としてしか機能しなくなってしまったこの生産性第一主義社会において、泉南高校における生徒、教師たちの唯一の「楽しみ」といえるだろう。
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